会社法が改正され、最近施行されたと聞きました。取締役の報酬規制のルールが変わったようですが、私の会社は新しい取締役の報酬規制のルールの適用対象になりますか。適用になる場合、どのようなポイントに気をつければ良いですか。

1 はじめに

令和元年12月4日に、会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)(以下、「改正会社法」といいます)が成立し、令和3年3月1日に施行されました。

この改正により、取締役の報酬等の決定方針の決定が一定の会社に義務付けられました。

本記事では、改正会社法のうち、取締役の報酬等の決定方針の部分について、その概要と対象となる会社に求められる対応について解説します。

2 改正会社法制定の経緯

(1)改正前の報酬規制

改正会社法制定前は、取締役の報酬は、定款又は株主総会決議において、①報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法、②報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法、③報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容を定める、とするルールがあるのみでした(会社法361条1項。なお、このルールは改正会社法施行後も変わらず存在します)。

この規定については、その趣旨は、取締役の報酬額の決定を取締役自身に委ねた場合に、いわゆるお手盛りの弊害があることから、その弊害を防止することにあると解されています。

判例は、取締役報酬の総額を株主総会決議で定めれば、各取締役への報酬の配分は取締役会決議で決定できるとしています。取締役報酬の総額を株主総会決議で定めれば、上記お手盛りの弊害を防止することができるためです。

(2)改正前の報酬規制の課題と改正の背景

上記の報酬規制は、たしかにお手盛りの弊害は防止できるものの、具体的な報酬の内容の決定については不明確になってしまうという課題がありました。

そこで、対象となる会社についての取締役の報酬等の内容の決定手続等に関する透明性を向上させる観点から、取締役報酬の決定方針についての改正が行われたのです(http://www.moj.go.jp/content/001327488.pdf参照)。

3 対象となる会社に求められる対応

(1)対象となる会社

「取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として法務省令で定める事項」(改正会社法361条7項柱書。なお、この内容の詳細は次項で解説します。)を定めなければならない会社は、以下のとおりです。

ア 監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって、金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの(主に株式を上場している会社です。)

イ 監査等委員会設置会社

上記ア、イに該当しない会社は、取締役の報酬等の決定方針の決定が義務付けられる対象の会社に当たりません。

(2)求められる対応

上記ア、イに該当する会社は、取締役の報酬等の決定方針を、取締役会決議で決定しなければなりません。

改正会社法は令和3年3月1日に施行されているため、上記ア、イに該当する会社で未だ対応をしていない会社は、早急に取締役会決議での取締役の報酬等の決定方針の決定を急ぐべきです。

(3)方針として定める事項の具体的内容

「取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として法務省令で定める事項」(改正会社法361条7項柱書)の具体的内容は、会社法施行規則98条の5各号に定められています。

詳細は以下のとおりです。

1号:取締役(監査等委員である取締役を除く。以下この条において同じ。)の個人別の報酬等(次号に規定する業績連動報酬等及び第三号に規定する非金銭報酬等のいずれでもないものに限る。)の額又はその算定方法の決定に関する方針

(具体例)「取締役の報酬は、役位、職責、在任年数、当社の業績、従業員給与の水準等を考慮して決定するものとする。」

2号:取締役の個人別の報酬等のうち、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の当該株式会社又はその関係会社(会社計算規則第二条第三項第二十五号に規定する関係会社をいう。)の業績を示す指標(以下この号及び第百二十一条第五号の二において「業績指標」という。)を基礎としてその額又は数が算定される報酬等(以下この条並びに第百二十一条第四号及び第五号の二において「業績連動報酬等」という。)がある場合には、当該業績連動報酬等に係る業績指標の内容及び当該業績連動報酬等の額又は数の算定方法の決定に関する方針

(具体例)「取締役の業務連動報酬等は、各事業年度の連結営業利益の目標値に対する達成度合いに応じて算出された額を賞与として毎年、一定の時期に支給する。」

3号:取締役の個人別の報酬等のうち、金銭でないもの(募集株式又は募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を取締役の報酬等とする場合における当該募集株式又は募集新株予約権を含む。以下この条並びに第百二十一条第四号及び第五号の三において「非金銭報酬等」という。)がある場合には、当該非金銭報酬等の内容及び当該非金銭報酬等の額若しくは数又はその算定方法の決定に関する方針

(具体例)「取締役に対しては、非金銭報酬等として、新株予約権を付与するものとし、その数は役位、職責、在任年数等を考慮して決定するものとする。」

4号:第一号の報酬等の額、業績連動報酬等の額又は非金銭報酬等の額の取締役の個人別の報酬等の額に対する割合の決定に関する方針

(具体例)「報酬等の種類ごとの比率の目安は、基本報酬:業績連動報酬等:非金銭報酬等=○:○:○とする。」

5号:取締役に対し報酬等を与える時期又は条件の決定に関する方針

(具体例)「取締役の基本報酬は、固定の金銭報酬とし、在任期間中、毎月支給するものとする。」

6号:取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の全部又は一部を取締役その他の第三者に委任することとするときは、次に掲げる事項

イ 当該委任を受ける者の氏名又は当該株式会社における地位及び担当

ロ イの者に委任する権限の内容

ハ イの者によりロの権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容

(具体例)「取締役の個人別の報酬等の内容については、取締役会決議に基づき代表取締役社長がその具体的内容について委任を受けるものとする。代表取締役社長は、取締役会から報酬委員会に諮問されその答申を得た内容の範囲内で、各取締役の基本報酬の額及び各取締役の担当事業の業績を踏まえた賞与の評価配分につき決定するものとする。」

7号:取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の方法(前号に掲げる事項を除く。)

(具体例)「各取締役の基本報酬については、取締役会が、株主総会において承認を得た報酬等の上限額の範囲内において、取締役の業績の評価、査定等についての報酬諮問委員会における審議結果を踏まえ、その具体的内容を決定する。」

8号:前各号に掲げる事項のほか、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する重要な事項

(具体例)「当社の各取締役の報酬は、当社の業績と連動した報酬とする。また、報酬等の内容決定については、報酬委員会の諮問を通じて、合理性及び公正性を確保するものとする。」

4 対象となる会社が適切な対応をしなかった場合

対象となる会社が、改正法の施行日である令和3年3月1日以後に、報酬等の決定方針を取締役会決議で決定せずに取締役の個別の報酬等の内容を決定した場合には、その決定は違法と解され、無効になる可能性があります。

そのため、対象となる会社は、適切な対応をとることが重要となります。

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