取締役会をWeb会議システム等によって行う場合の注意点を教えてください。また、規程はどのように定めるべきでしょうか。

従来、取締役会は、原則として本店に参加者が集合して行うものとされてきました。

しかし、グローバルなビジネスを展開している会社では、その取締役が本店が所在する国ではない国に所在し活動するようになったので、全員が物理的に顔を合わせるのは難しくなりました。

取締役会は会社の経営について討議し決定する会議体です。
会議体が機能する状態というのは、参加者の発言や状況が「即時」かつ「双方向(インタラクティブ)」に伝わる状態です。
そうだとすると、物理的に参集していなくても、電話回線等を通じて「即時」かつ「双方向」な状態であれば会議に参加していると評価して良いということになりそうです。
しかし、各企業の独自の解釈・判断で取締役会への出席があったと認めるのでは、取締役会の運営の適法性や決議の有効性を争われたときに法的に不安定になりかねません。

そのような疑義があったところ、電話会議システムを利用した旨の記載のある取締役会議事録が添付された商業登記申請について、「出席取締役が一堂に会するのと同等の相互に充分な議論を行うことができる会議の議事録として、適式な取締役会議事録と認められる」とする趣旨の法務省民事局の商業課長通達がありました(電話会議の方法による取締役会の議事録を添付した登記の申請について・平成14年12月18日民商3044号民事局商事課長回答)。

この取締役会議事録には、「電話会議システムにより、出席者の音声が即時に他の出席者に伝わり、出席者が一堂に会するのと同等に適時的確な意見表明が互いにできる状態となっていることが確認されて、議案の審議に入った。(--議事の記載--)本日の電話会議システムを用いた取締役会は、終始異状なく議題の審議を終了したので、議長は〇時〇分閉会を宣言した。」との記載があったので、その後は電話会議システムを利用した取締役会の議事録には同様の表現を用いる例が一般的になりました。
もちろん、「即時」かつ「双方向」がポイントなので、これと全く同じ表現をする必要はありません。

その後は、会議を通じて「即時」かつ「双方向」状態が維持できれば、スカイプなどインターネットシステム(Web会議)を利用した通信コストのより低い方法、マイクロソフトTeamsやZoomなど音声だけでなく映像併せて表示できるシステムを利用して取締役会を開催するようになり、新型コロナに対する感染拡大防止の要請の下でWeb会議による取締役会は一気に普及するようになりました。
余談ですが、裁判所でも、昨年から一部の民事事件の口頭弁論の準備手続(一種の会議)について、マイクロソフトTeamsに最高裁判所というアカウントを設け弁護士はゲストとして参加する方法をとっています。

このように参加者にとっては便利なWeb会議ですが、取締役会では営業秘密やインサイダー情報に該当する事項について話し合うこともあります。
参加者が一つの会議室に集まって議論するのではなく、それぞれのオフィスや自宅などで参加する場合にはオフィスの同僚や家族に会議の内容を知られる可能性があり、また、ネット回線に不正にアクセスした者に会議内容を覗かれる恐れもあります。

少し硬い話になりますが、会社法は、「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」を決定することを取締役会の権限としています(第362条4項⑥)。
ここに言う「法務省令」とは会社法施行規則のことです。
そして、これに該当する会社法施行規則は、次のように定めています。

>会社法施行規則
第100条 (業務の適正を確保するための体制)
1 法第362条第4項第6号に規定する法務省令で定める体制は、当該株式会社における次に掲げる体制とする。
① 当該株式会社の取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
② 当該株式会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制
③ 当該株式会社の取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
④ 当該株式会社の使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
⑤ 企業集団における業務の適正を確保するための体制

取締役会では、取締役の業務執行の結果である月次の営業成績を報告したり、設備投資や資金調達について決議したりします。それらは、「取締役の職務の執行に係る情報」なので、取締役会としては、そのような情報が適切に扱われるよう「保存及び管理に関する体制」を整備しておくべきだということになります。しかし、現時点では、上場会社を含めほとんどの会社において、Web会議システム等の運営に関する規程や体制は整備されていないと思われます。

そのような体制が整備されないままWeb会議システム等の参加者から取締役会の議事についての情報が漏洩しこれによって会社が損害を被った場合、取締役会は「取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制」を整備すべき善管注意義務を怠ったと評価されかねません。

情報の安全管理の基本的な方法は、①組織的安全管理、②人的安全管理、③物理的安全管理、④技術的安全管理です。
Web会議システム等に関する規程を設けることは、これらのうち①組織的安全管理の要素の一つとなります。

会社の取締役会規程(規則)にWeb会議システム等に関するルールが未だ設けられていない場合には、取締役会規程の招集の条文の前あたりに、Web会議システム等によって取締役会を開催する場合に備えた条文を追加することをお勧めします。
併せて、役員に対する個別のWeb会議システム等の利用の注意点の教育(②人的安全管理)、安全性の確認された端末の支給、会議毎のパスワードの配布などの技術的な安全管理対応をすることになります。

参考までに、以下に簡単な条文(案)を書いておきます。

(電話ないしインターネットシステムによる取締役会の開催(案))
第〇条の2
1 取締役会は、必要ある場合には、出席者の意思表示等が相互かつ即時に伝達できる状態を維持しつつ、電話会議ないしインターネットシステム(Web会議システム等)の方法を用いて開催することができる。
2 当社は、Web会議システム等によって取締役会を開催するときは、利用するWeb会議システム等とその運用方法の安全性に問題がないことを確認するものとする。
3 取締役会の参加者が本条の方法によって取締役会に参加するときは、以下を遵守しなければならない。
① 不正アクセスの可能性のあるWiFiシステムに接続して会議に参加しないこと
② 利用する機器等のセキュリティソフトは最新のものを利用し、パスワードによるアクセス制限を設けること
③ 利用する機器等を経由した会議の音声および映像を参加者以外の者が聞いたり覗き見したりできないようにすること
④ 利用する機器等は紛失したりしないように安全に保管・管理すること

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