当社の取引先は民事再生を申し立てるようです。当社は売掛債権を有しているのですが、民事再生の手続が開始した後に弁済を受けることはできるのでしょうか。

民事再生手続が始まる前に発生した債権は再生債権といって、再生計画が成立してから、これに従って弁済されます(民事再生法85条)。但し、少額債権等例外的に弁済されるものがあります。

解説

以下の場合には、再生計画認可の決定が確定する前に弁済されることがあります。

1 下請業者に対する弁済(法85条2項)
再生債務者が大手の製造業者などである場合、当該債務者を主要な取引先としている中小の下請業者などは、再生計画の成立をまっていたのでは資金繰りに支障を来すことが考えられます。そこで、このような中小企業者を保護するために、再生計画認可決定の確定前でも、裁判所の許可を得てその全部または一部を弁済することができると定めています(85条2項)。 そして、この適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 再生債務者を主要な取引先とする企業であること
  • 中小企業者であること
  • 事業の継続に著しい支障を来すおそれがあること

「再生債務者を主要な取引先とするかどうか」は、当該企業の再生債務者に対する依存度によって決せられ、依存度は、(再生債務者との取引高)/(当該企業の取引高)によって計算されますが、具体的には、当該企業の他の取引先へ依存度も勘案されます。

「中小企業者」については、民事再生法には定義規定はありませんが、例えば下記の中小企業法の規定が参考になります。

主たる事業 資本金又は出資総額 従業員数
小売業 5000万円以下の会社 50人以下の会社・個人
サービス業 5000万円以下の会社 100人以下の会社・個人
卸売業 1億円以下の会社 100人以下の会社・個人
製造・建設・運輸業その他 3億円以下の会社 300人以下の会社・個人

もっとも、この定義に該当しなくても、再生債務者の規模との相関関係で本条の中小企業者といえる場合があり得ますし、逆に、この定義には該当するが本条の中小企業者とは言えない場合もあり得ます。
「事業の継続に著しい支障を来すおそれがある」といえる場合には、支払不能又は支払停止になるおそれがある場合のほか、既に弁済期にある自己の債務を弁済するために重要な営業資産を処分しなければならない場合も含まれます。

2 手続の円滑な進行のための少額債権の弁済(法85条5項による弁済)
個々の再生債権者は原則として等しく再生手続に参加する権利を有していますので、債権額が少額の再生債権者が多数ある事案では、手続が煩雑になり費用の負担も大きくなります。他方で、少額の再生債権を弁済しても、一般には他の再生債権者の権利に実質的な影響を及ぼしません。そこで、裁判所の許可を要件として、少額債権について再生計画認可決定確定前に弁済することが認められています。
当該再生債権が「少額」かどうかは、再生債務者の業務の規模、資金繰り、弁済能力などを総合的に考慮して決定されます。
なお、仮に少額債権の基準額が10万円とされた場合、50万円の債権を有している再生債権者でも、40万円を放棄するならば、10万円を弁済してもらうことができます。但し、少額債権の弁済というのは再生債務者の義務ではなく、資金繰りに応じて実施されることになります。

3 事業の継続に著しい支障を来す場合の少額債権の弁済(前同)
この弁済は、上記2の弁済とは異なる観点から判断されます。その判断要素としては、弁済の対象となる債権の額、再生債務者の資産、弁済の必要性などが挙げられます。ただ、この要件は、制度が濫用されないよう厳格に解釈されているようです。
過去には、下記のようなケースで弁済が許可されています。
・  原材料の供給業者が限られている場合に、取引先である供給業者から当該原材料の供給が停止されてしまうとき
・  一定の地域内に運送できる運送業者が限られている場合に、取引先である運送業者を通じての主要商品の配送が出来なくなるとき
・  病院の廃棄物を処理する業者が限られている場合で、当該取引先の処理業者との取引が止まってしまい、代替措置を取ることもできないとき

Category:弁済

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