未上場ベンチャー企業が、株式、種類株式、社債、新株予約権付社債などを発行する場合の金融商品取引法における開示ルールについて教えてください。(未上場会社の金融商品取引法における発行開示規制)

株式や社債などの流通性の高い証券(いわゆる1項有価証券・法2条1項)によって資金調達をする場合、投資のプロや少人数を対象とする「私募」であれば、有価証券届出書や通知書を財務局に提出する必要はありません。

この場合、募集の届出が行われていない事実や転売制限の内容について勧誘対象者に事前に告知する義務がありますが、調達額が1億円未満の場合にはこの事前告知義務も免除されています(法23条の13第1項)。

このような私募に該当しない場合には、「募集」となり、有価証券届出書及び目論見書(例外あり)の作成・提出義務があります。但し、調達額が1億円未満の場合にはこの義務は免除され、そのうち1千万円以上の場合には有価証券通知書の提出義務があります(法13条・法4条6項)。

「募集」に該当することになると、以後相当のコストが生じることになりますので、ベンチャー企業の資金調達は「私募」の要件を満たすように設計するべきです。

発行開示規制は、発行する有価証券の種類、取得勧誘の対象者の属性と人数、発行価総額等によって規制内容が定められています。以下、分かりやすさを損なわない程度に説明していきます。

1 開示規制の趣旨

開示規制は、直接金融における投資家保護と市場の健全性確保のため、資金調達者である発行者を規制対象とし、投資家のために、発行する有価証券に関する情報(証券情報)や発行者に関する情報(企業情報)を適切に開示する義務を課する規制をいいます。

投資家保護という制度趣旨からすると、投資勧誘の対象が、投資のプロや特定の少人数だけである場合には、一般に開示する必要がありません。このため、「私募」の場合には、有価証券届出書の提出が免除されています。

2「私募」の種類と要件

 「私募」には、「適格機関投資家私募」「特定投資家私募」「少人数私募」の3つの種類があり、それぞれ要件が定められています。「私募」については、原則として、募集の届出が行われていない事実や転売制限の内容について勧誘対象者に事前に告知する義務があることは前述のとおりです(法23条の13第1項)。

(1)適格機関投資家私募(法2条3項2号イ、施行令1条の4)

ア 適格機関投資家[1]のみを相手方として行う勧誘であること。

イ 当該有価証券がその取得者から適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ないものとして政令(施行令1条の4)で定める場合であること。

(施行令1条の4の要件は以下のとおり)(ア)発行者が、上場証券、募集・売出しの届出をした証券(公募証券)、所有者が1000名以上である証券のいずれかに該当する株券等をすでに発行している者ではないこと(施行令1条の4第1号イ)。(イ)有価証券を適格機関投資家以外には譲渡を行わない旨を定めた譲渡契約を締結することを取得の条件とすること(同号ハ)。(注)新株予約権付社債についてはかかる転売制限の要件は緩和され、転売制限が付されている旨を券面に記載することに代えて、その旨を記載した書面を勧誘の相手方に交付することを選択できる(施行令1条の4第2号ニ、定義府令11条)。

(2)特定投資家[2]私募(法2条3項2号ロ)
特定投資家私募は、プロ向け市場制度創設(2008年・TOKYO PRO MARKET)に伴って設けられた制度です。

ア 特定投資家のみを相手方として行う勧誘であること

イ 当該取得勧誘の相手方が国、日本銀行及び適格機関投資家以外の者である場合にあっては、金融商品取引業者等(法34条参照)が顧客(発行者等)から委託により又は自己のために(自己の発行する有価証券について)当該勧誘を行うこと。

ウ 特定投資家等以外の者に譲渡されるおそれが少ないものとして政令(転売制限等・施行令1条の5の2参照)で定める場合に該当すること。

(3) 少人数私募の要件(法2条3項1号ハ)

ア 多人数向け取得勧誘(50名以上に対する勧誘)、適格機関投資家向け取得勧誘、特定投資家向け取得勧誘のいずれにも該当しないこと。
勧誘の対象者(声を掛けた相手)が50名以上であれば、実際には1名しか出資に応じなかったとしても、多人数向けとなることに注意する必要があります。
勧誘の対象者に適格機関投資家が含まれ、かつ適格機関投資家私募の要件も満たしている場合には、その人数は取得勧誘の対象者としてカウントされません。
なお、取得勧誘を分割して発行開示規制を回避・潜脱することを防止する趣旨から、過去6か月以内に当該有価証券と同一種類の有価証券について別の少人数向け取得勧誘による発行が行われており、それらにおける勧誘対象者の人数と今回の勧誘対象者の人数が50名以上となる場合は少人数向け取得勧誘とは認められません(期間ルール・施行令1条の6)。

イ 多数の者に譲渡されるおそれが少ないものとして政令に定める場合に該当すること(転売制限等・施行令1条の7)。

(施行令1条の7の要件は以下のとおり)ア すでに発行されている当該株式と同一種類の株式が法24条1項各号のいずれにも該当しないこと(すなわち未公開株であること)。イ 新株予約権行使により発行される株式が未公開株であること。ウ 社債等を取得しまたは買い付けた者がこれを一括して他の1人の者に譲渡する場合以外の譲渡が禁止される旨の制限が付されていること。

3 「私売出し」について

ベンチャー企業では、既存の株主構成を修正するために、既存株主が株式を売り出す場合があります。このような売出の場合も、投資家保護の要請は募集のケースと同じですから、(1)プロ私売出し(法2条4項2号イ)、(2)特定投資家私売出し(法2条4項2号ロ)、(3)少人数私売出し(法2条4項2号ハ)について、募集とパラレルな規制が設けられています。

                                       以上

法令名の略称

法   :金融商品取引法

定義府令:金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令

施行令 :金融商品取引法施行令

開示府令:企業内容等の開示に関する内閣府令

特定府令:特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令

参考URL

・金融庁ホームページ http://www.fsa.go.jp/common/law/index.html

・関東財務局HP:http://kantou.mof.go.jp/index.html 

2018.3


[1] 有価証券に対する投資について専門的知識および経験を有する者として内閣府令で定める者をいう(法2条3項1号・第一種金融商品取引業者、銀行、保険会社、ベンチャーキャピタル等、他定義府令10条参考)。

[2] 特定投資家とは、国、適格機関投資家、上場会社等をいいます(法2条31項、定義府令23条)。特定投資家は適格機関投資家を含む概念です。

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