ソフトウエアの開発委託契約書の損害賠償の項目について、契約の相手方(受託者)から、「甲または乙は、相手方の契約不履行によって生じた損害を発注金額の1か月相当額を限度としてその賠償を求めることができる。」に変更してほしいという要望がありました。どう考えるべきでしょうか。

業務委託契約における委任者の代金支払義務と、受託者の役務提供の内容と条件とは対価関係にあります。
損害賠償額の制限はこの受託者の役務提供に関する条件の一つです。
なので、委託料が相場より安ければ責任は軽く、高ければ責任は重くなると考えるのが衡平(公平)です。

民法は、当事者間において特約がない場合の損害賠償のルールとして、
「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。」
と定めています(民法415条1項本文)。
民法は、一般的な契約の場合には、これが衡平だと考えているのです。
そして、民法416条1項は、
「債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。」
と定めています。
同条文の「通常生ずべき損害」とは、債務不履行等から一般的に発生する(相当因果関係のある)損害と解釈されています。

通常のソフトウェアの開発業務を委託する契約を前提とすると
相手方の提案である
「甲または乙は、相手方の契約不履行によって生じた損害を発注金額の1か月相当額を限度としてその賠償を求めることができる。」
は、相当因果関係のある損害のうち発注金額の1か月相当額を限度とする点で民法より軽くなっています。
そして、この契約で双方が被る可能性がある損害は、甲(委託者)については上限を定量的に測れませんが、乙(受託者)は委託料相当となるので、
この条文は甲(委託者)にとって片面的に不利益なものです。

民法が衡平な損害の分担割合を定めているとすれば、相手方の提案はこれを軽くするもの(例外的な扱いを求めるもの)なので、
そのような例外的な扱いを合理化できる理由は何か、それを相手方に説明してもらうと良いと思います。
委託料が相場以上である場合には、「なるべく責任を限定したい。」というだけでは「合理的な」理由とは言えません。
相手方があくまで責任を限定したいと主張し、それでも相手方に委託せざるを得ない場合には、
① 委託料を相当程度減額する
② それをヘッジするための保険に加入して委託料からその保険料分を減額する
③ 相手方提案の条文の末尾に、「但し、乙の故意・重過失」による場合を除く と追記する
等が考えられます。
契約書の条文なので、相互に誤解がないようによく協議してからクローズすると良いと思います。

Category:契約 , 賠償

TAGS:損害賠償の範囲 , 業務委託契約 , 相当因果関係

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