改正民法(債権法)の要綱仮案について(売買契約①)

民法

いよいよ契約各論に入ります。民法改正の要綱仮案のうち、今回は「売買契約」について触れたいと思います。

1 手付について

不動産売買などでよく使われる手付金についても要綱仮案では判例の考え方を明記しました。

まず、売主がいわゆる手付倍返しによる契約解除をする場合、解除の意思表示の際に現実の提供(=実際に手付金倍額を持参すること)をすることが必要とされました。これは最判昭和51年12月20日判時843号46頁や最判平成6年3月22日民集48巻3号859頁で認められている判例法理ですので、実務の運用とも合致する改正と言えます。

ただし、手付放棄や倍返しにより契約を解除しようとする場合、相手方が既に契約の履行に着手していた時には手付解除できないとも明記しました。これも判例の考え方に沿ったものです。

2 売主の追完義務

(1)改正案概要

売買契約での目新しい改正内容としては、売主の追完義務規定買主の追完請求権と言ってもよいかと思います。)があります。ここは実務的にも影響があると思います。

売買契約の目的物が種類、品質又は数量に関して不適合の場合、買主は売主に対して「履行の追完」を求めることができるとなっています。ただし、買主の責に帰すべき事由による不適合の時には追完請求は認められません。

「履行の追完」の内容ですが、「目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡し」と明記されています。買主はこれらの追完方法を選択できることになります。

ただし、改正案第2項で、売主は、買主にとって不相当な負担を課すものでなければ、買主が選択した追完方法と違う方法を用いることができると規定されています。

(2)実務的な対応

実務的に影響があると述べた点についてですが、従来は、特定物売買の時には履行の追完請求はないという考え方が根強かったと言えます。誤解を恐れずにざっくり言うと、特定物というのはこの世でそれしかない物であり、不特定物というのは世の中で代替物がある物として、特定物の例として中古自動車を挙げ、不特定物の例として新車を挙げることが多いです。

この要綱仮案では特定物とか不特定物とかで分けていないので、特定物であっても履行の追完請求が可能となりますが、特定物の代替物を見つけるのが困難な場合も大いに想定されます

そこで、特定物の売主側に立てば、契約書において、この追完義務の全部又は一部を排除しておくことが必要になるかもしれません。それでも買主側には代金減額請求権がありますので買主側にとっても大きな不都合はないとも言えます。

他方で、先ほど書いたとおり、改正案第2項は、買主が追完方法を選択しても、売主がこれを引っくり返して違う方法を行うことも可能としています(これを売主が勝手にやれば、法的に有効でも後々にさらに揉める原因になるかもしれませんが。。。)。契約書において、追完方法については売主が異議を言えない特約にするとか、逆に、買主が請求できる追完方法を制限するとか、追完方法については協議して定めるとかを検討することになるかもしれません。


ちなみに、この新設規定からすると、従来から民法学に存在していた「瑕疵」という言葉も無くなっていくのかなという印象です。このとおりに改正すれば、今まで瑕疵担保責任として扱っていた事案も債務不履行責任の一場面となります。

3 代金減額請求権

(1)改正案概要

先ほども少し出てきました買主の代金減額請求権についても要綱仮案では明記されました。追完請求権とセットで実務的な影響がある改正と言っていいでしょう。

要綱仮案では上記のとおりに契約不適合の場合には買主は追完請求ができるのですが、相当期間を定めて催告をしてもその追完がないときには「買主は、その不適合に応じて代金の減額を請求することができる」と定めました。この規定からしますと、第一次的には買主は追完請求を行うことを求められているということになります(代金減額請求は二次的な請求となります。)。

さらに、改正案第2項では無催告で代金減額請求できる場合を列挙しています。具体的には、履行の追完が不能の場合売主が履行追完を拒絶する意思を明確に表示している場合などを列挙しています。これは解除の場合と同じになります。

改正案第3項では契約不適合について買主に帰責性がある場合には代金減額請求はできないと規定しており、追完請求と同じになります。

(2)実務的な対応

代金減額請求は損害賠償請求ではないので、売主に帰責性がないという理由では代金減額請求は拒めません。そこで、売主側に立った場合には、契約書において買主による代金減額請求を排除する条項を設けておくことも検討の余地があるかと思います。

 

要綱仮案では、追完請求や代金減額請求をしている場合でも、損害賠償請求や解除を妨げないとしています。次回には損害賠償請求や解除を中心に整理してみたいと思います(弁護士 鈴木 俊)。

平成26年12月5日

Category:民法

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