解約後の権利義務に関する契約条項の適用が制限された裁判例

業務委託契約著作権


本件(知財高裁平成26年4月23日判決。裁判所HP )は、フリーカメラマンであるAと映像制作・販売を業とするB社(ポニーキャニオン株式会社)との間で、四季の山野草と高山植物等に関する映像作品(本件作品)中の映像動画をめぐって争われた事案です。

本件の争点は他に複数あります(風景の映像動画の著作物性、その利用方法等の包括的許諾の有無など)が、今回は解約後の権利義務に関する契約条項の適用に関する部分にフォーカスして紹介します。

1 事案の概要

(1)本件契約の締結

A及びB社は、平成21年12月ころ、同年11月1日付でAがB社の委託に基づき録音録画物(山野草映像動画など)の制作業務を行い、B社がAに対して一時金150万円及び印税を支払うことを内容とする契約(本件契約)を締結しました。

(2)本件契約の内容(抜粋。強調部分は適宜追加しています。)

第1条(目的)
① Aは、B社に対し、別紙目録記載の録音録画物(複製、頒布、上映、放送、公衆送信等に適する未編集の録音録画物、以下、原版という)の制作業務(撮影業務(音声の収録を含む)をいう、また、必要な関連業務を含む、以下、本件業務という)をB社の委嘱に基づき行うことを承諾し、B社はこれらに関する対価をAに支払うことを約諾した。
  ※ 別紙目録
    【原版】○○(仮題)に使用する録音録画物
     撮影期間:2009年11月~2010年9月(予定)
     
備  考:①カラー・ステレオ
          ②春夏秋冬、各々の季節の山野草を収録
② 前項に基づき制作された原版(全ての収録素材を含む)及び原版を制作する過程で生じた中間成果物(以下、併せて、本件成果物という)に関する所有権並びに著作権法上の一切の権利(著作隣接権、並びに著作権法第27条、28条の権利を含む)、産業財産権及びその他一切の権利はB社に帰属するものとする。 

第7条(納期)
 Aは、B社の最終的承認済原板(及びその他本件成果物)を、別途B社の指定する期日迄にB社に対し納入するものとする。 

第9条(解約)
 ......B社、Aのいずれかが次に定める各項のいずれかに該当する事由が生じた場合は、当該行為者の相手方は相当の催告期間を定めて是正を求めた後、当該行為者がその催告期間内に解約事由を是正することができないときは、本契約を解約することができるものとする。......
(1)正当な理由がなく、Aにおいて制作スケジュールが著しく遅滞した場合。
(2)Aが、B社の定める制作基準に基づく本作品の納入をB社の定める期限までに完了することが不可能とB社が判断した場合。
(3)Aが本件業務を中断した場合。
(4)Aが本件業務に要する著作物等の権利を取得することが不可能となり、またはB社に取得させることが不可能となった場合。
(5)B社、Aのいずれかが金融機関から取引停止の処分を受けた場合。
(6)B社、Aのいずれかが差押え、競売、強制執行、滞納処分等の処分を受けた場合。
(7)B社、Aのいずれかが破産、民事再生、会社更生の申立てを自らなし、もしくは他からこれらの申立てを受けた場合。
(8)本件業務遂行に際し、Aが第三者の権利を侵害し、又はその他の事由によりB社の名誉を著しく毀損した場合。
(9)本件業務に関して公序良俗に反する行為、並びにB社の品位を傷つける行為を行った場合。
(10)その他、B社、Aのいずれかが本契約に定める各条項のいずれかに違反した場合。

第10条(解約の効果)
① B社が、前条の解約により本契約を終了させたときは、AはそれまでにB社より受領した金員をB社に返還しなければならない。

② B社は、本契約を解約した場合においても、本契約によって取得した著作権、及びAがそれまで取得した本件成果物の素材の所有権はすべてB社に独占的に帰属するものとする。

(3)解除に至る経緯

B社はその後、Aに対し、本件契約の一時金合計約150万円を支払い、また、平成24年3月21日、Aの撮影した映像動画を収録した本件作品(DVD・Blu-ray商品)を発売しました。
しかし、Aは、平成23年5月から6月にかけて、他社が運営する動画素材販売ウェブサイトにおいて、山野草映像動画を含む動画(本件動画)を提供し、送信可能化し、販売していました。
そこでB社は、平成24年5月23日、Aに対し、本件動画が本件契約1条②にいう本件成果物に当たることを理由に、10日以内に、他社が運営する動画素材販売ウェブサイトへの掲載と販売を中止して、B社に映像素材を引き渡すよう求めましたが、Aから引渡し等がなされなかったため、同年6月12日、Aに対し、本件契約を解除する旨の意思表示をしました。

2 請求

本件裁判は、AのB社に対する、著作権侵害に基づく損害賠償請求が先ですが、本件争点に関する請求は、B社がAに対し反訴としてした、本件動画の著作権確認及び本件契約解除に伴う一時金約150万円の返還請求です。

3 原審(東京地裁平成25年8月29日判決)の判断

原審東京地裁平成25年8月29日判決は、Aの損害賠償請求を一部認容(約30万円)する一方、本件契約10条について特に指摘をすることなく適用し、B社の本件動画の著作権及びB社の一時金返還請求を全部認容(約150万円)しました。

4 知財高裁の判断

知財高裁は、Aの損害賠償請求につき原審を変更し棄却しました。他方、B社の本件動画の著作権については原審と同様の判断をし、認容しました。
そして、B社の本件契約解除に伴う一時金約150万円の返還請求に関し、本件契約10条の適用について以下のように認定判断し、原審を変更して棄却しました。

(1)本件契約の解除の有効性(本件契約9条)

まず前提として、B社による解除は、本件契約7条の違反により10条(10)に該当するものであると指摘し、有効であると判断しました。

(2)本件契約の解除の効果(本件契約10条)

 ア 本件契約10条の内容

まず、本件契約の解約の効果として、10条①はB社がAに対して受領した既払金の返還を求めることができるとする一方で、10条②はB社がAから取得した著作権及び本件成果物の素材の所有権を失わないとする特則を規定しており、B社に片面的に有利な規定であると指摘しました。

 イ 本件契約9条の場合とのバランス、本件契約10条の適用範囲の限定

もっとも、本件契約9条の他の号の場合(以下の場合)には、責めのない委託者(B社)が将来的な著作権等の権利をめぐる紛争に巻き込まれる懸念をなくし、あるいは、契約違反をした受託者(A)への制裁又は違反の予防として、本件契約10条に規定する効果を及ぼしてもやむを得ないものであり、契約当事者双方もそのように解釈して本件契約を締結したものと推認されるから、以下のような場合には本件契約10条が全面的に適用されると判断しました。

・ 受託者が順調に受託業務を遂行していない場合や委託者に成果物の著作権等を
  取得させることが困難となった場合など(9条(1)~(3))
・ どちらか一方の金銭的信用力が極めて悪化した場合や破綻した場合など
  (9条(4)~(7))
・ 受託者に著しい不行跡があった場合など(9条(8)、(9))

しかしながら、逆に、本件契約10条が念頭においていないような場合については、同条を当事者間の利害調整や衡平の観点から適宜調整の上適用することが、本件契約の合理的解釈といえると判断しました。

 ウ 本件における本件契約10条の適用の可否

本件は、認められる以下の事情によれば、本件契約10条が本来的に想定する事例とは異なるものであると判断しました。

① 本件作品を収録したDVD等は既に発売されており、したがって、本件作品は映像動画として
  完成品と評価できること
② B社がAに支払った対価は、ほぼ本件作品の作成のために費消されたものと推認できること
③ 本件動画は、本件納品映像動画が撮影された同一機会に撮影の角度、画角を変えて撮影された
  ものであり、B社がそれらを収録した映像素材の引渡しを受けるべきものであること
④ 仮にAによる本件動画の引渡未了や公衆送信化によりB社に損害が生じたのであれば、
  B社は、別途、Aに対して損害賠償請求をすることが可能であること
⑤ 本件動画の合計は32映像であるが、本件作品に含まれるのは500映像であり、B社に
  引き渡されなかった映像数が納入された映像数に比して格段に少ないこと

そして、契約の合理的解釈として、10条②に基づく権利等の維持の効果を認める必要性は高く、その適用はあるものの、10条①に基づく既払金の返還の効果は、これを認める必要性は低いだけでなく、その時機も逸していて殊更に大きな負担をAに強いるのであるから、その適用はない、と判断しました。

5 検討

本件は、解約後の権利義務に関する条項の適用が制限されましたが、B社の立場からすれば、Aの帰責事由により解約する場合の条項であって、有利に規定するのもやむを得ないところといえます。
10条②は成果物の著作権・素材の所有権を存続させるものであり、規定しなければむしろ問題が多いものと考えます。
ただ、10条①の既払金の全額返還については、ウ④に指摘する通り「別途、Aに対して損害賠償請求をすることが可能であること」を考えると、「契約違反をした受託者への制裁又は違反の予防」としては受託者に酷となる場合が多いのではないかと考えます。
この点は、録音録画物に限らず、業務委託契約一般においても注意すべきところといえます。以前当ブログ で紹介した、"請負が途中で解約された場合において、業務内容が可分であり、当該成果物によって利益を受ける場合には、報酬の一部は認められる"との規律にも関係するところです。

なお、実は本件紛争の発端は、今回紹介した契約条項の内容よりも、本件成果物の範囲の特定が不十分であったことによるものと思われます。今回紹介した部分と併せて、委託業務・成果物の範囲の特定についても、十分注意すべきといえます。

Category:業務委託契約 , 著作権

TAGS:委託契約 , 権利義務 , 著作権 , 裁判例 , 解約後 , 録音録画物制作

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