改正民法(債権法)の要綱仮案について③

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改正民法(債権法)の要綱仮案について、前回のブログでは債権譲渡までご紹介しました。今回は、「債務引受」と「弁済」をご紹介します。

11 債務引受

債務引受は現行法では明文がありませんでしたが、実務では認められてきた制度です。裁判実務でも概ね固まったルールがありましたので、今回はそれを明文化したというものです。

要綱仮案において明文化した債務引受の類型としては「併存的債務引受」と「免責的債務引受」です。

(1)併存的債務引受

債務引受という言葉が与えるイメージからすると、債務者Bが債権者Aに対して負っている債務がそっくりそのまま第三者Cに移転してしまうような感じがありますが、併存的債務引受は違います。「併存的」とありますように、もともとの債務者Bにも債務はそのまま残りますが、引受人Cも同じ債務を併存して負うというもので、連帯保証のようなイメージを持って頂いた方が分かりやすいと思います(なお、要綱仮案では、両者の債務を「連帯債務」として捉えています。)。

要綱仮案では、併存的債務引受は、債権者Aと引受人Cとの間の契約でできると定めてあります。

また、債務者Bと引受人Cとの間で併存的債務引受契約をすることもできるが、その場合には債権者Aの引受人Cに対する承諾を得ることによって効力が生じるとなっています。

前記のとおり、連帯保証のような側面もある併存的債務引受ですので、前回のブログで紹介した保証人保護規定の潜脱として使われるおそれもあるかもしれません。これも議論としてはありましたが、要綱仮案ではその点に関しては特に規定を設けていません。考え方としては、「併存的債務引受」という名称を用いていても、実質保証であれば、保証とみなして、保証人保護の規定を適用すればいいということになるのだろうと思います。この点については今後の議論を注視していく必要があります。

(2)免責的債務引受

これはまさに債務引受という感じで、債務者Bの債務が引受人Cに移転してしまうというものです。Bは債務を免れることになります。

要綱仮案では、免責的債務引受についても、債権者Aと引受人Cとの間の契約によってすることができます。また、債務者Bと引受人Cとの間の契約によってすることもできますが、その場合には債権者Aは引受人Cに対して承諾することが必要になります。

債務者が入れ替わるものですから、債権者としては慎重な取り扱いが求められるケースかもしれません。要綱仮案では移転する債務のために設定された担保権の移動についても定めてあります。例えば、この担保権というのが連帯保証人だったりすれば、その者の書面による承諾が必要になったりします。

以上のような形で明文化された債務引受ですが、これを機会に使い勝手がよくなることが期待されます(「バンクビジネスNo.878 2014/10/1号」参照)。

12 弁済

(1)総則

現行法では、弁済の項目に入っても、いきなり第三者弁済の条文だったのですが、要綱仮案では、総則的に、弁済をしたときには債権が消滅するという弁済の原則的な効果から入っています。この規定の内容自体は当たり前の内容ですが、第三者弁済から入るのも唐突ですので、分かりやすくなったと思います。

(2)第三者弁済

第三者弁済の規定も少し改正する予定です。要綱仮案では「弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済することができない。」となっていますし、これにより第三者が弁済できる場合でも債権者は原則として受領を拒むことができるとなっています。現行法474条2項は「利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。」とだけ定めていましたが、この改正により、正当な利益のない第三者から弁済の提供があった際に、債務者の意思に反するかどうか分からない債権者には受領拒絶という手段が認められたということになります。

なお、「弁済をするについて正当な利益を有する者」という表現は現行法500条(法定代位)と同一の文言で(要綱仮案では現行法500条も改正となっていますが、この文言は引き継がれています。)、これと同じ解釈をすればいいということでしょうから、より簡明になったと思われます。

(3)債権の準占有者に対する弁済

現行法では、債権の準占有者に対する弁済という言葉があるのですが、この「準占有者」という言葉が分かりにくいということもあったのか、要綱仮案では「取引上の社会通念に照らして受領権者と認められる外観を有する者」という表現になっています。そして、このような者に対する弁済は、善意無過失のときに限り効力を生ずるともなっていますので、実質的な変更はなく、今までの判例や裁判例・解釈論はそのまま参考になるものと思われます。

「準占有者」という言葉は法曹にとっては使い勝手のいい馴染みのある言葉で、違和感すら感じなくなっていますが、一般的には異国の単語に等しかったのかもしれません。取引上の社会通念に照らして受領権者と認められる外観を有する者」が長いので、今後はどのような略語を使えばいいかなと思ったりします。

(4)代物弁済

代物弁済については一種の要物契約(実際に代替物を交付することが必要)という解釈も有力でしたが、要綱仮案では、合意のみで契約が成立する諾成契約であることを明記しました。代物弁済の合意が実務的には重要な役割を果たしている面もありますので、これを代物弁済の予約だとか何だとか論じるよりも、諾成契約だとしてしまった方がすっきりしていると感じます。

(5) 弁済の方法

要綱仮案では、弁済方法のうち、弁済の時間と預金口座への弁済について明記しました。

弁済の時間については、商法520条に規定があるのですが、これを民法に移行した感じです。要は、取引時間の定めがあるのであれば、その取引時間内に債務の履行をするよう請求できるという規定です。

預金口座への弁済については新設となります。現在においては、預金口座への振込による弁済が一般的とも言えますので、弁済効力発生時期について特定すべくあえて新設したのだろうと思われます。要綱仮案では、預金の払戻請求権を取得した時となっています。この具体的内容については解釈に委ねられることになりますが、問題となるのは、債務者は振り込んだけれど銀行の過誤により債権者の預金口座に送金されなかった場合だと思われます。最判平成8年4月26日などによれば、この場合には債権者は払戻請求権を取得していないということになり、弁済の効力も生じないということになるのではないかと思われます。

(6)弁済による代位

現行法499条によれば、任意代位(弁済をするについて正当な利益を有しない第三者による弁済の場合にその者が債権者に代位できるという制度)にあたっては、債権者の承諾が必要とされていますが、要綱仮案では、「債権者に代位する」とだけなっていますので、債権者の承諾は不要となりました。ただし、任意代位を債務者に主張するには債権譲渡の場合に要求される債務者への通知又は債務者の承諾が必要となります。

現行法500条の法定代位(弁済をするについて正当な利益を有する第三者による弁済のケース)には「弁済によって当然に債権者に代位する」となっていますので、何らの手続きもせずに債務者に法定代位を主張できます。

法定代位相互間の関係については、司法試験受験生泣かせだった記憶がありますが、法制審議会でも相当議論があった様子です。結果的には、網羅的に定めるというよりは解釈に委ねる方向での改正になったのかなという印象です。

一部弁済による代位の場合について、要綱仮案では、代位者は「債権者の同意を得て」その弁済した価額に応じて、債権者とももに権利を行使することができるとしました。大審院決定昭和6年4月7日によれば、一部弁済の代位者は単独で抵当権を実行できるとなっていましたが、この古い判例を採用しなかったと言えます(ただし、現行法下でも、債権者が権利行使するときだけ一部代位者も一緒に行使できるという趣旨と考えるのが有力な学説でした。)。他方で、債権者は、一部代位者の同意なく、単独で権利行使できることも明記しています。さらに、一部代位者や債権者による権利行使によって、配当などがある場合、「債権者が代位者に優先する」とも明記しました。これは判例を明文化・一般化したもので、特に実務的に変更があるわけではありません。

 

今回のブログはここまでにします。今までも今回のブログでも解釈論に委ねたとか改正を見送ったというような話があったかと思いますが、これは改正不要という結論だったわけではないと考えます。改正の必要もあるが、意見の集約が難しくもっと議論すべきとか、解釈に委ねた方がよりよいという場面もあるわけです。現行法でもそうですが、解釈というのも非常に重要な行為であり、仮に民法改正となっても、解釈の必要性は永遠に続くと言えます(もちろん、解釈が人それぞれというのもあり、あまりに解釈に依存すれば法的安定性を欠き、問題解決機能も損ないかねないとも言えます。)。

引き続き、次回以降も要綱仮案の解説をしていきたいと思います(弁護士 鈴木 俊)。

平成26年10月1日

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