金融ADR制度による金融機関とのトラブル解決

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金融ADRという制度は,金融取引を巡るトラブルが増加傾向にあることをふまえて,金融取引を巡るトラブルを早期・簡易・安価で解決する手段として,平成22年10月から導入されました。

私のブログでも,何度も「金融ADR」という言葉を使用していることから,今回は,「金融ADR制度」について簡単にご説明いたします。

 

<概略>

まず,金融ADRは裁判外での紛争解決制度です。

「ADR」とはAlternative Dispute Resolutionの略です。

裁判外ですので,裁判所ではない,紛争解決機関(ADR機関)において事件を処理することになります。

各金融機関が所属する業界団体ごとにADR機関を指定している場合が多いです(指定紛争解決機関といいます。)。

メジャーな指定ADR機関としては,「一般社団法人全国銀行協会」と「特定非営利活動法人 証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC・フィンマック)」になろうかと思います。

指定がないようなケースでは,いわゆる外部ADR機関を利用することになりますが,メジャーなものとして弁護士会の紛争解決センターがあります。

指定ADR機関の一覧は金融庁のホームページhttp://www.fsa.go.jp/policy/adr/shiteifunson/index.html に掲載されていますので,参考になさってください。

 

<対象事案>

金融ADRの対象となる事案は「金融業務全般」です。

ですから,為替デリバティブの問題のように,金融機関による適合性原則違反や説明義務違反などの違法行為により損害を受けた場合はもちろんのこと,金融機関からの借入金の返済計画の変更(リスケ)の要請をしたい場合や正当の理由なく口座の開設を拒否されたような場合,金融機関から問題ある金融業務に関して謝罪を受けたいというような場合でも対象となります。

ただし,各ADR機関において,応じられない事件類型を規定していますので,微妙かなと思う場合には,制度に詳しい弁護士や各ADR機関に相談されることをお勧めいたします。

なお,個人のみならず,法人であっても,金融ADR制度は利用できます(ただし,大企業の場合には,金融事業者と対等な立場で紛争を解決する能力があるみなされ,金融ADRの利用を拒まれる場合があります。)。

 

<手続>

各ADR機関によって手続きは異なります。

例えば,全国銀行協会の場合,ざっくりと言いますと,まず①苦情処理手続きを行い,これで解決しない場合には,②紛争解決手続き(あっせん委員会への申立て)に入ります。あっせん委員会では,あっせん委員が,双方から事情聴取を行い,資料を検討したりします。その後,話し合いの結果,あっせん案が提示され,和解が成立して終わる場合もあれば,不成立で終わる場合もあります。

金融ADR制度は強制力のある制度ではありません。あっせん委員会が提示する特別調停案というものがあり,金融機関側は原則として受諾義務があるのですが,これも顧客側が受諾しなければそれまでですし,金融機関側においても不服であれば訴訟を起こすことが可能です。

話し合いのやり方は,双方が同席するパターンもあれば,双方当事者は同席せずに交互にあっせん人に言い分を述べていくパターンもあります。

金融ADR手続きにおいても弁護士を頼まなければいけないわけではありません。ただ,申立書の作成や和解案の検討などは弁護士などの専門家に委任することが必要になってくることもあるかと思います(不満な内容の和解案でも,一旦受諾してしまうと取り返しがつかないことになります。)。

 

<期間>

「裁判」というと,時間がかかる(もちろん,双方の主張をよく聞いた上で,慎重に事実を認定をして,妥当と思われる結論を出すためにはある程度の時間がかかるのはやむを得ない側面があります。)というイメージがありますが,金融ADR制度は非常に短期間での解決を予定しています。

具体的には,メジャーなADR機関である全国銀行協会を例にしますと,苦情処理手続きでは2か月,紛争解決手続きでは4か月以内を目安としています。ですから,概ね半年で,手続きは終了することになります。 FINMACFふぃん

FINMACの場合には,いきなり紛争解決手続に入ることも可能な建前ですが,紛争解決手続では同じく4か月以内の解決を目安としています。

 

<費用>

費用は各ADR機関によって異なります。全国銀行協会は無料です。FINMACは紛争解決(あっせん)手続きの場合には請求金額ごとに申立金が定められており,例えば,5000万円の請求ですと,申立金は5万円です(苦情処理は無料です。)。

 

 

金融ADRは,白黒をつける場所ではなく,話し合いの場所です。あくまでも白黒をつける場としては訴訟を利用することになりますから,目的に応じてADR制度と訴訟制度を使い分けることになると思いますし,金融ADRでは話がつかずに結局訴訟になってしまう場合もあります。

ただ,金融ADRは非常に使いやすい制度ですので,金融機関との間でトラブルを抱えている方は積極的に検討すべき制度と思います。

 

平成24年5月8日

 

 

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