【人口戦略会議・公表資料】『人口ビジョン2100』を読んで

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昨日(3月4日)、日経平均は4万円を超え、このところ景気のいい話も多い。

他方で、新聞、雑誌、テレビ、その他で少子化問題についての議論や報道も目につく。
少子化問題こそは日本経済が直面する最大の問題だ。
日本における現在の出生率の傾向を踏まえて2100年を推計すると人口は6300万人(中位推計)と半減し、そのうち40%は高齢者となる。
国立社会保障・人口問題研究所が2017年にまとめた推計では、日本の出生数が80万人を下回るのは2030年としていたが、実際には8年早いペースで2022年にこれを割り込んだ。このままいくと低位推計である人口5100万人、高齢化率46%、外国人割合10%(つまり日本人は4590万人、うち65歳未満は2500万人)となるかもしれない。
国連の中位推計では、2100年の世界の人口は110億人だ。
2100年に向けて人々が歩みを続けていく過程で、インフラやサービスを担うことができない地方は消滅し、かつ荒廃する。
GDPなどの経済指標も相対的に低下していく。
そのような社会に住む人の大部分は、「日本はもうダメ、未来はない」と感じ、広範な社会心理的停滞が常態化する。
子供を作っても幸せにしてあげることはできないと思えば子供をつくるカップルもいなくなる。
そして放置しておけば、この負のスパイラルは終わることがない。
そこで、人口ビジョンでは2100年に人口8000万人、高齢化率40%で安定する社会を作りましょう! 頑張りましょう! と提言している。

現状の把握や同会議の考える対策については、同公表資料を見て頂きたい。
【人口戦略会議・公表資料】『人口ビジョン2100』
https://www.hit-north.or.jp/information/2024/01/09/1927/
丁寧に概要版なども併せて掲載されている。

少子化問題について最近思ったことは、

・都市化が進むと子供が持ちづらくなる

東京都心に大きなマンションが沢山建っている。新聞の折り込みなどに入っているチラシをみると60㎡くらいでも結構な値段だ。90㎡の物件(普通に何億円!)の間取りを見ても育てられる子供は2人くらいだろう。
余裕のない人はもっと狭い物件か、長時間通勤することになる。
子供が3人になった各都道府県の立地のよい場所に100㎡超で託児所付きのUR賃貸住宅に廉価で住めるということにしたらどうだろうか。どうせ産むなら3人以上という流れはできないだろうか。
住宅事情の問題だけではなく、自然から離れて生活するようになると、子供を産んで育てるという動物としての本能が弱まると思う。
数年前から、ときどき埼玉の里山に行くようになったが、田舎に行くと人が少ない。
雑草を刈ったり、壊れたところを治したりする人手もいる。
子供や家族が多いと助けになるし、寂しくない。
現在でも、人間が自然の一部分として生きているようなところでは子沢山の家族がいる。
しかし、地方の現実は厳しく、2040年までに市町村の半分が消滅するという指摘もある(日本創生会議・2014年)。
人々が楽しく地方で生活できるような対策をするべきだと思う。

・親たちが子供を持てるだけの余裕を持てるようにすること

少子化の根本的な原因は、多くの親にとって子供がいても得にならないことだと思う。
「得にならない」というのは、経済的な負担のことだけでなく、精神的な生きやすさ(ストレス)、子供がいることによる満足感などを総合して子供をつくることを躊躇する状態という意味である。
元岩手県知事の増田寛也さんが、女子学生から「子供を持つことはリスクと考えている。子供を幸せにできるのか、教育費はどれだけかかるのか、自分のキャリア形成の時間が奪われるのでは。など実に多くの懸念」を聞いた(朝日新聞のインタビュー・2024年2月21日)と言っていた。
これらの「懸念」をすべて感じなくするか、かなり弱めないと彼女たちは意図的に子供を持つ気にならない。
格差は広がっており、2023年末の生活保護受給世帯は165万世帯(「人」ではない。)と過去最高となっているが、生活保護に対するネガティブなイメージにより、受給していないが要件に該当している世帯数(暗数)は、その2~3倍あると推定されている。

数年前に、ドイツ人のご婦人と初島往復クルージングをしたことがあるが、彼女は3人の子供を育て上げた後、システムエンジニアとして仕事をしていると言っていた。
子育て中も仕事をしていたのか? と聞いたら、子育てが終わってから大学に戻り、国の負担で1年間実務的な勉強をさせてもらってから復職したとのこと。
彼女のような人が職場に戻って立派に仕事をし、若い職員に家族の話をしたり、子育ての相談に乗ることは良い少子化対策だと思う。ドイツの出生率はコロナ前までは回復傾向にあった。

荒っぽい言い方をすると、日本は、バブル崩壊後、おじさんたちが自分の職を守るために若者たちを非正規雇用にして凌いできてしまった。
そのような自分勝手な大人たちの薄情なマインドがデザインした社会では、未来の希望とセットでしか生まれない新しい命が増えることはない。
大人たちは自分の取り分を減らしても若者や子育て世代に優しく(なんでも手伝ってやるし、分け前を多く)する、それが当たり前という空気になるべきだと思いう。
それは、政府だけが頑張ることではなく、すべての企業や大人たちがすることだ。
会社の上司の皆さんには、若者に仕事を教え、休みを与え、沢山給料を払って褒めてやってほしい。それが回り回って自分のためになるのだ。

子供を作って育てるということは、本来、動物である人間にとって自然なことのはずだ。
年頃になれば、ディズニー映画のバンビのように恋に落ち(彼は鹿ですが)、そのうち子供を作って命が繋がっていくことを感じる。生まれた子供を愛し、自分が親からどれだけ愛されていたのかや親の苦労を感じて深く感謝する。子供の成長を見ながら、自分もこうだったと振り返る。
親子関係は美しい場面ばかりではないかもしれないが、子供がいると人生が深まる面がある。
それを自分の価値観や自律的な選択ではなく、「社会が生きずらい」からという理由で諦めるようなことであってはならないと思う。

少子化については、問題視しない(100年前に戻るだけでしょ)という人もいる。しかし、1930年の日本の高齢者率は4.8%で若者の国だった。4割高齢者の未来像とは質的に異なる。
また、私の属するアントレプレナーシップ(ベンチャー起業家)のドメインでは、ロボット、AI、イノベーションによって生産性が向上するから社会は悪くならないという楽観論の人もいる。しかし、社会のリソースはイノベーションに回る前に高齢者が使ってしまうという指摘もある。作り続けている膨大なインフラも老朽化していくが、修繕、取り壊し、廃棄にかかるコストは増加するばかりだ。

同会議のメンバーであった元日銀総裁の白川さんは、人口減少問題への取り組みの遅れという現状を見ると、1990年代前半に日本銀行で不良債権問題に取り組んでいた時に痛感した世論との認識ギャップと人口減少問題をめぐる現在の状況が恐ろしく似ていることを感じ、そのことに焦燥感を覚える、、、不良債権問題には臨界点があるが少子化には明確な破局がないままに進行していく(白川方明・-1990年代の不良債権問題との類似性-少子化・人口減の深刻さはなぜ共有されないか・中央公論2024年3月号)としている。「焦燥感」というのはかなり強い表現で、白川さんの居ても立ってもいられない気持ちが伝わってくる。

もとより、私は少子化に関する専門家ではないが、常々、この問題だけは放置できないと思っていたので、久しぶりにブログを書いてみました。
少子化が大きな問題であるということを多くの人々が共有することが第一歩なので、このことを皆で発信し、「少子化、なんとかしようね。」を挨拶にしたらよいと思う。

Category:最近の話題

TAGS:人口ビジョン2100 , 人口減少 , 少子化問題

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古田利雄>
古田利雄

主にベンチャー企業支援を中心に活動しています。上場ベンチャー企業、トランザクション、NGC、Canbas等の役員もしています。

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