コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会報告の紹介

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経済産業省が設けたコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会(座長:神田秀樹東京大学大学院法学政治学研究科教授)は、「形式的にガバナンス体制を整えるだけでなく、中長期的な企業価値向上に向けたコーポレート・ガバナンスの実践を実現するための検討を行ってまいりました。この度、中長期的な企業価値向上のためのインセンティブ創出、取締役会の監督機能の活用、及び監督機能を担う人材の流動性の確保と社外取締役の役割・機能の活用という基本的な考え方の下で、(「 」 内は引用)」、取りまとめを行った(平成27年7月公表)。

 この公表の中の、研究会が企業から行ったヒアリング結果である「我が国企業のプラクティス集」(後掲)は、上場会社の実務を行う者にとって、或はこれから上場会社を目指す者にとって参考になると思う。

 詳細を理解をされたい方には、これらの文献を読んでいただくことをお勧めするとして、目についた点を取りまとめて、私見もかなり加入して紹介する。

1 取締役会の運営方法(ボードプラクティス)
 ・ 社長を頂点とする業務執行チームの作戦会議・進捗報告的なものから、業務執行者が株主の代弁者としての社外取締役の質問に対して説明を行うものに移行している。業務執行の監督の内容は、不適切な業務執行を抑止するというディフェンスの役割とともに、業務執行者にリスクをとるよう仕向けるオフェンス強化の役割がある。
 ・ 社外役員で構成される諮問機関としての報酬委員会、指名委員会の創設。報酬委員会の設置は、業務執行者側からしても社内の納得を得やすいというメリットもあるようだ。
 ・ 社外役員が判断するための情報提供体制の強化。反面、些末なことは上程事項から外す方向性もみられる。

 法的に審議しなければならないことを決め、月次試算報告とともに、法的に報告をすべきことを報告するという取締役会は多いと思うが、会社法では、「5・10年後の日本と世界はどうなってるか? そのとき当社のマーケットはどうなっているか?」を議論することにはなっていない。
 しかし、このようなことを考えて、備えることの重要性は言うまでもない。


2 役員報酬設計について
 ・ インセンティブ・プランとして報酬をとらえる傾向は強化されており、企業全体の目標と、個々の役員の目標(例:営業部長なら利益でなく売り上げ)、その判断基準を適切に設定したうえで、役員報酬設計を行う。
 報酬プランの損得勘定や税務についても紹介されている。

その他、独立社外者のみによる年数回の会合を実施している会社の事例や、執行役に取締役会において事業の説明をさせることによって、取締役候補者として適任かどうかをスクリーニングしている会社事例、変動型報酬設計の工夫の例など興味深い事例も掲載されている。


「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」報告書を取りまとめました

・ コーポレート・ガバナンスの実践
~ 企業価値向上に向けたインセンティブと改革 ~ 平成 27 年 7 月 24 日
http://www.meti.go.jp/press/2015/07/20150724004/20150724004-1.pdf

・ 我が国企業のプラクティス集
http://www.meti.go.jp/press/2015/07/20150724004/20150724004-2.pdf

・ 英米における取組の概要
http://www.meti.go.jp/press/2015/07/20150724004/20150724004-5.pdf


・ 社役員賠償責任保険(D&O保険)の実務上の検討ポイント
http://www.meti.go.jp/press/2015/07/20150724004/20150724004-3.pdf

・ 法的論点に関する解釈指針
http://www.meti.go.jp/press/2015/07/20150724004/20150724004-4.pdf

Category:会社法 , 弁護士業務 , 最近の話題

TAGS:コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会 , 取締役会の運営 , 社外取締役

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古田利雄>
古田利雄

主にベンチャー企業支援を中心に活動しています。上場ベンチャー企業、トランザクション、NGC、Canbas等の役員もしています。

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