民法が改正され、約款に関する規定が新設されると聞きました。当社は、サービス利用規約を定めていますが、どのような関係があるでしょうか。

1 はじめに

2017年5月26日に「民法の一部を改正する法律」が成立し、6月2日に公布されました。
民法は、事業活動の基本になる法律であり、取引実務への影響を与えることとなります。施行は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内とされていますので、充分に準備をして、円滑に移行できるようにすべきです。

改正法の改正点は、多岐にわたりますが、今回は、利用規約等の規約類の規定の仕方や運用に影響を与える「定型約款」に関する改正を説明します。

改正民法では、「定型約款」に関する規定が新たに定められました。利用規約等の規約類の多くは、この定型約款に含まれます。
ウェブサービスにおいて利用規約を準備している多くの事業者は、定型約款に関する改正に注目が必要です。

2  定型約款を契約内容にするために必要な事項

(1)合意があったと認められる類型

 改正民法には、利用規約を含む定型約款に関するルールが定められました。従来は、利用規約などの定型約款に契約と同様の効力を与えることができるのかという点が論点でしたが、改正民法によって、契約と同様の効力を与える旨が示されてます(新548条の2第1項)。

 改正民法では、定型約款の個別の条項についてユーザと合意したこととするためには、
a.定型約款を契約の内容とする旨の合意すること、
または
b.あらかじめ定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示することが必要とされます。
(同項1号及び2号)

 これを踏まえると、オンライン申込時に利用規約を示し、同意を得ることや、利用規約の中に「利用規約が契約内容になること」を明示することが重要であるといえます。

(2)合意したと認められない類型

 改正民法では、以下のような定型約款の条項は、合意したとみなされないこととされています。そのため、免責を定める場合には、このような規定も配慮しなければなりません
a. 相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重するもの
b. その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの

 定めている利用規約の中に上記のような規定があれば、たとえ「利用規約に承諾します」などの表示をもらったとしても、効力を生じないこととなります。

3  定型約款の内容の提示義務

定型約款は、請求に応じて、示す必要があることが明示されました(新548条の3第1項)。これに違反して請求を拒んだ場合、定型約款が契約内容として扱われないこととなります。

ただし、既に書面で交付している場合や、オンライン上に定型約款を公表している場合には、改めて示す必要はありません(同項但し書き)。

4  定型約款の変更手続き

(1)個別の合意がなくても変更できる場合

 現行の民法では、定型約款を一方的に変更できるのかという点が論点になっていました。契約は合意によってされるものであるにもかかわらず、このような個別的な合意がされることなく利用規約が変更されることが一般的であったからです。

 改正民法では、以下のような場合には、個別的な合意をしなくても定型約款を変更できることが定められました(ただし、可能であれば、原則どおりユーザの同意を得ることがより確実です)。
a. 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき、
b. 定型約款の変更が、変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき

 このうち、b の考慮要素の一つとして、「定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無」と規定されていますので、利用規約にもきちんと「利用規約を変更することがある旨」を規定しておく必要があります。
 なお、a,bの要件を充たさないと思われる利用規約の変更については、契約が合意に基づくという原則どおり、ユーザの同意を得て変更する必要があります。

(2)定型約款の変更手続き

 改正民法では、定型約款の変更手続きとして、以下の事項をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければ効力が生じないと規定されています(新548条の4第2項、第3項)。

利用規約中の変更に関する条項も、それにしたがった規定にしておくとよいです。
・定型約款を変更する旨
・変更後の定型約款の内容
・効力発生時期

5  まとめ

以上のように定型約款に関する事項が法律に明示されることになりました。施行までは時間がありますが、今後の利用規約等の定型約款の作成実務は、改正民法に留意して行う必要があります。
一度、見直しを行ってみてはいかがでしょうか。

6  参照条文

(定型約款の合意)
第548条の2 定型取引(ある特定の者が不特定多数の者 を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が 画一的であることがその双方にと って合理的なものをいう。以 下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」 という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の 者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
(1)定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
(2)定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。 )があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方 に表示していたとき。
2 前項の規定にかかわらず、同項の条項 のうち、相手方の権利 を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定 型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして 第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったも のとみなす。

(定型約款の内容の表示)
第548条の3 定型取引を行い、又は行おうとする定型約 款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期 間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方 法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を 交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは 、この限りでない。
2 定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒 んだときは、前条の規定は、適用しない。ただし、一時的な通 信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限 りでない。

(定型約款の変更)
第548条の4 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、 定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項に ついて合意 があったものとみなし、個別に相手方と合意をする ことなく契約の内容を変更することができる。
(1)定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
(2)定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更 の必要性、変更後の内容の相当性、 この条の規定により定型 約款の変更をすることがある旨の定めの有無及び その内容そ の他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
2 定型約款準備者は、前項の規定による定型約款の変更をする ときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する 旨及び変更後の定型約款の内容並 びにその効力発生時期をイン ターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければな らない。
3 第1項第2号の規定による定型約款の変更は、前項の効力発 生時期が到来するまでに同項 の規定 による周知をしなければ、 その効力を生じない。
4 第548条の2第2項の規定は、第1項の規定による定 型約款の変更については、適用しない。

平成29年10月18日
弁護士 中野友貴

Category:IT , 契約 , 契約書 , 権利

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