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さて、今回は、中国国際経済貿易仲裁委員会がなした仲裁判断の我が国での承認及び執行の要件について判断した裁判例と、休業補償給付等が賃金を補てんするものでないとして、これらの給付の受領を理由とする賃金額の減少を認めなかった裁判例をご紹介します。
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1 裁判例紹介―大阪地方裁判所平成23年3月25日決定
中国国際経済貿易仲裁委員会がなした仲裁判断の我が国での承認及び執 行の要件について判断した裁判例をご紹介します。
2 裁判例紹介―東京高裁平成23年2月23日判決
休業補償給付等が賃金を補てんするものでないとして、これらの給付の 受領を理由とする賃金額の減少を認めなかった裁判例をご紹介します。
1 裁判例紹介―大阪地方裁判所平成23年3月25日決定
本件は、中国企業のA社が申立人で、日本企業のB社が被申立人です。A社とB社は平成19年9月に、単結晶シリコン棒の売買契約を締結し、両社は、この売買契約書において、本件契約から生じる紛争については中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)の仲裁によって解決するとの合意をしました。
平成21年8月に、この売買契約について紛争が生じ、A社がこの仲裁委員会に仲裁を申し立てたところ、仲裁委員会は、B社はA社が支払った代金50万1920米ドルを返却しなければならない等の仲裁判断をしました。
そこで、A社が大阪地裁に対し、この仲裁判断を我が国で執行するための決定を求めたというものです。
争点としては、もともと仲裁判断に基づいて強制執行するためには裁判所が仲裁判断に基づく民事執行を許す旨の決定を出す必要があるのですが(仲裁法45条1項ただし書き)、外国でなされた仲裁判断の場合には国家間の条約などが存在することから、本件でも、中国でなされたこの仲裁判断を、我が国において執行するための準拠法や要件が問題となりました。
大阪地裁は、まず、多国間条約であるニューヨーク条約(「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」)及び日中貿易協定が適用されるべきと判示しました。そして、ニューヨーク条約7条1項は条約締結国が仲裁判断の承認及び執行に関する他の条約を締結しているときにはそちらが優先することを認めていると指摘し、日中貿易協定が優先的に適用されると判示しました。
次に、日中貿易協定8条4項が「両締約国は、仲裁判断について、その執行が求められる国の法律が定める条件に従い、関係機関によって、これを執行する義務を負う。」と規定していることから、結局のところ、執行が求められる国である我が国の法律が適用され、日本の仲裁法が適用されることになると判示しました。そして、本件では仲裁法45条2項各号に定める適用除外事由が認められないとして、仲裁判断に基づく強制執行を許可する旨の決定を出しました。
紛争解決の強制的な手段としては、大きく分けて訴訟と仲裁による解決が考えられます。訴訟による解決の場合、一方の国の判決を他方の国で執行する場合、その外国判決を承認するかどうかが問題となり、日本の民事訴訟法118条4号は「相互の保証があること」(その当該外国でも日本の判決が一定程度承認されていること)を承認の要件の1つに掲げています。日本と中国との間においては、この相互の保証がなされていないと考えられる現状で考えると、契約において、紛争解決の手段としていずれかの国の裁判所を専属管轄とするような合意は避けるべきといえます。そこで、日中間の国際取引においては仲裁を解決手段として契約上明記することを選択することが多くなってくるのです。今回ご紹介した裁判例は、その日中間の仲裁に関する準拠法・要件について判断した裁判例として実務上参考になるものと考えます(鈴木俊)。鈴木俊のなるほど
2 裁判例紹介―東京高裁平成23年2月23日判決
株式会社Yの従業員であるXが、Yがした平成16年9月9日付解雇は、業務上の疾病であるうつ病のために休業していた期間になされたものであり、労働基準法19条に違反して無効であるとして、雇用契約上の地位確認と、未払賃金、安全配慮義務違反による債務不履行または不法行為に基づく損害賠償金の支払い等を求めた事案です。
Yは、Xが休業を始めた以降の賃金を支払っていないため、Xは、解雇後の賃金はもちろん、休業期間中の未払賃金も請求しています。一方で、Xは、休業期間中に、健保組合から傷病手当金等を、労働基準監督署から休業補償給付等を受領しています。
裁判所は、Xのうつ病が業務上の疾病であり解雇が無効である、また、Yに安全配慮義務違反による責任があると認定しており、これらはもちろん争点となりましたが、 今回紹介するのは、賃金を支払う必要があるとしても、休業期間中の賃金額から、Xが受領した傷病手当金及び休業補償給付の額を控除することができるか、という点です。
裁判所は、傷病手当金、休業補償給付は賃金を補てんするものではないから、これらの給付を受領しているからといって賃金額が減少することにはならないとして、賃金満額の支払いをYに命じました。
なお、Xがすでに受け取った休業補償給付は、労基署との関係で不当利得になる(労基署に返還することになる)としていますので、Xは、休業期間中について、賃金と休業補償給付をダブルでもらうことはできないことになっています。
解雇が無効な場合、解雇時に遡ってそれ以降の賃金を支払うことになりますが(いわゆるバックペイというものです。)、本件は解雇後6年以上経過しているため、解雇後の賃金総額だけでも2000万円を超えています。本件のY社は大手企業でしたが、中小規模の企業では資金繰りに影響を及ぼすことになったかもしれません(田辺敏晃)。田辺敏晃のなるほど