東北地方太平洋沖地震により、亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様、そのご家族の方々に心よりお見舞い申し上げます。
今回は、計画停電時の休業の取り扱いについての厚生労働省の通達と、地震により建物が壊れて他人に損害を与えた場合の法律関係を紹介します。
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1 厚生労働省の通達について
今回の大震災による計画停電時の休業の取り扱いについての厚労省の通達を紹介します。
2 地震により建物が壊れて他人に損害を与えた場合の法律関係について
土地の工作物の占有者/所有者の責任、他人の敷地上にある瓦礫等の撤去義務等についての法律関係を紹介します。
3 地震災害にまつわる法律問題のQ&A
当事務所のHP内に地震災害にまつわる法律問題のQ&Aを設けました。
1 厚生労働省の通達について
3月11日に東北地方を中心に襲った大震災により、同月14日から計画停電が実施されていますが、この計画停電により労働者が休業した場合の扱いについて、3月15日、厚労省より通達(基監発0315第1号)が発出されました。
会社自体が計画停電の対象地域にあり、計画停電が実施された場合に、その停電時間における休業は、労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」に該当せず、したがって会社は休業手当を支給する必要はありません(1項)。
例えば3時間の計画停電が予定されている場合に、残り時間営業しても仕方がないので、全営業時間を休業とした場合には、計画停電の時間帯以外の時間帯における休業は、原則として、会社の自己都合となり、労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」に該当し、休業手当の支払いが必要となります(2項本文)。ただし、この場合であっても、計画停電の時間帯だけを休業とすることが経営上著しく不適当な場合には、計画停電の時間帯以外の時間帯における休業も含めて全ての休業が、労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」に該当せず、したがって会社は休業手当を支給する必要はありません(2項但書)。
計画停電が予定されていたために休業としたが、結果的には停電が実施されなかった場合、これが実際には多く、厄介なケースだと思います。通達(3項)は、この点、非常に抽象的で解決基準とはなっていません。
これまでのケースを見ていると、計画停電の予定は前日に発表され、実施の中止は何らアナウンスなく行われています。
そうなると、やはり「結果」よりは「予定」に重点をおいて、少なくとも計画停電が予定されていた時間帯については、1項と同じく考え、労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」に該当せず、したがって会社は休業手当を支給する必要はない、と考えることもできるのではないでしょうか。
また、今回の通達は、会社自体は計画停電の対象外であるが、労働者が計画停電により電車が運休し、休業した場合には何ら触れてはいません。
基本的な考え方としては、やはり「使用者の責に帰すべき事由」に該当せず、したがって会社は休業手当を支給する必要はない、と思います。
以上と異なり、会社が就業規則上の「自宅待機」を命じた場合には、就業規則の規定に従うことになります。多くの会社の就業規則では有給になっていると思います。
会社が職務命令よる自宅待機と考えないのであれば、職務命令による自宅待機との誤解を与える通知等は行なうべきではありません。
(佐川明生)
参考: 基監発0315第1号
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/other/dl/110316a.pdf
労基法26条1項、2項
2 建物が壊れて他人に損害を与えた場合の法律関係
・土地の工作物の占有者/所有者の責任
建物が壊れて他人に損害を与えるケースには様々なものあります。ブロック塀が倒れて歩いていた人に怪我をさせたり、屋根瓦が落ちて隣の家を壊す、或は、貯蔵施設に貯蔵していた燃料や薬品が流れ出して土壌汚染や健康被害を及ぼすこともあります。
このようなケースについて、民法は、土地の工作物の占有者や所有者は、建物が設置または保存において一般的に備えるべき安全性を備えていないことによって、他人に損害を与えたときは、これを賠償しなければならないとしています。
そこで、「一般的に備えるべき安全性」はどのように判断されるかが問題になります。
昭和53年の宮城県沖地震によって、ブロック塀が倒壊して通行人が亡くなった事件で、裁判所は、ブロック塀が建造された当時、通常発生することが予想できた震度5の地震に耐える安全性があったかどうかを基準にしました。
裁判所が、震度5を基準としたのは、このブロック塀が作られた当時の建築基準法施行令等がその程度の耐震強度を求めていたからです。
耐震強度は強いに越したことはありませんが、耐震強度の基準を高くすれば建築コストが高くなって国民全体の負担が増えてしまいます。反対に、耐震強度を低く設定すれば、いざ地震がきたときは被害が大きくなります。建築基準法は、それぞれの要請を調整する観点から、合理的な耐震水準を定めています。
・ 耐震震度に関する建築基準法の改正
昭和53年の宮城県沖地震では、7000戸を超える建物が壊れたので、昭和56年に建築基準法は改正され、住宅やビルなどの建築物は、「震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7程度の大規模地震でも倒壊は免れる」強さとすることが義務づけられました。
したがって、昭和56年6月以降に建築確認を取得した建物に求められる安全性は、それ以前の建物よりもやや加重されると思われます。
東北地方太平洋沖地震は、場所にもよりますが、震度6から震度7という強い揺れが繰り返し記録されているので、もともとその建造物に明らかな手抜き工事があったというような例外的場合を除いて、一般に要求される安全性を備えていなかったということはできず、基本的に、建物の占有者や所有者は責任を負わないことになると思われます。
・ 危険な建物には安全確保措置をとる
地震によって建物が壊れ、屋根や壁が落下する可能性があるなど危険な状態にある場合、建物の占有者や所有者が、相当な期間内に安全を確保する措置をとらない場合、建物の保存に瑕疵があることになり、それによって近隣が受けた損害について責任を負うことになります。
震災によって大きな経済的ダメージを受けて、安全確保のための措置をとることができないことも考えられますが、地方自治体に相談したり、とりあえずネットをかけたり、「危険」であることを表示するなど出来る限りのことをするべきです。
・他人の敷地上にある瓦礫等の撤去義務
倒壊した建物の所有者が隣地の建物を毀損した場合、原則として損害賠償責任を負わないとしても、隣地に瓦礫等が残存している場合、その瓦礫等を撤去しなければならないのでしょうか。
所有権が侵害された場合、民法上、損害賠償請求以外に、侵害の排除を請求することができます。侵害の排除請求は、損害賠償請求と異なり、所有者の故意・過失は問われません。したがって、隣地の所有者は、倒壊した建物の所有者に、瓦礫等の撤去を請求することができます。
瓦礫等の所有者が撤去しない場合、侵害している物が明らかな廃棄物であれば、隣地の所有者が処分しても、特に問題が起きないと考えられます。しかし、家財道具等の財産的価値がある物の場合、勝手に処分しまうと、逆にその家財道具等の所有者から、所有権を侵害したとして、損害賠償責任を問われる可能性があります。
所有者に確認してから処分するのが無難ですが、今回の震災は被害が甚大で、一つ一つ所有権を確認することは困難だと考えられます。措置法を制定する等、立法による速やかな解決が望まれます。
(古田利雄、平井祐治)
3 地震災害にまつわる法律問題Q&A
当事務所のHP内に地震災害にまつわる法律問題のQ&Aを設けましたので、ご覧ください。
https://www.clairlaw.jp/disaster/index.html