少し寒さが和らいだと思えば、花粉予報が始まりましたね。今年は、昨年よりも花粉量が多いそうです。
今回は、うつ病による労働者の自殺について、業務との相当因果関係を否定した裁判例と、「まねきTV事件」の裁判例を紹介します。
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1 裁判例紹介−仙台地裁平成22年4月20日判決
自殺したAの母親Xが、Aが自殺したのは、恒常的に長時間の深夜労働を余儀なくされ、うつ病に罹患したことが原因であるとして、会社に対して損害の賠償を求めた事案において、Xの請求が棄却された裁判例を紹介します。
2 裁判例紹介―最高裁平成23年1月18日判決
海外在住者等から、インターネット経由でテレビ番組を視聴できる装置「ロケーションフリー」)をテレビアンテナとインターネットに接続した状態で預かるサービス「まねきTV」が、TV局の送信可能化権及び公衆送信権を侵害しているとした裁判例を紹介します。
1 裁判例紹介−仙台地裁平成22年4月20日判決
本件は、恒常的に長時間の深夜労働を余儀なくされた派遣社員Aが、うつ病に罹患して自殺したとして、Aの母親であるXが、派遣先会社(Y1)及び派遣元会社(Y2)に対し、安全配慮義務違反による債務不履行又は不法行為に基づき、A及びXの被った損害の賠償を求めた事案です。
本裁判の主な争点は、Y1におけるAの業務と自殺との間の因果関係です。
Aは、平成12年7月から派遣されていましたが、平成18年3月27、自宅内にて首を吊って自殺しているのを発見されました。
Xは、Aが、貴重品の仕分けを継続的・反復的に行うなど、精神的な緊張を伴う業務に従事していたこと、自殺前の1年間、恒常的な長時間労働・深夜労働を強いられていたこと、平成17年11月ころからうつ病の典型的症状を示すようになったことを主張しました。そして、Aの業務とうつ病発症、及びうつ病発症と自殺との間に相当因果関係があると主張しました。
Yらは、Aの業務内容は、貴重品の仕分けという単純なものであり、緊張を伴うものでもなく、その労働の密度も低く、軽作業であって肉体的な負担はなかったこと、ノルマ達成や成果を求められるものでもなかったこと、勤務中は十分な休憩が与えられていたこと、深夜とはいえ勤務時間帯は一定しており、昼夜交替勤務に従事した場合に比べ、はるかに肉体的な負担は少なかったこと、職場での人間関係が円満であったことなどを主張し、Aの業務と自殺との間の因果関係を争いました。
裁判所は、直近6ヶ月の時間外労働の平均、業務の肉体的・精神的負担、睡眠時間、恒常的な深夜労働から慢性疲労が生じていたか否か、職場内の人間関係などを考慮した上で、Aがうつ病を発症していたかどうかが必ずしも明らかでないとし、仮にAがうつ病を発症していたとしても、Y1におけるAの業務に起因するものとは認められないとして、Aの業務と自殺との間の因果関係を否定しました。
肉体的疲労が原因で死亡に至る過労死(自殺以外)の事案では,長時間労働(労働量)が業務と死亡との因果関係の主な判断要素となります。一方,過労自殺の事案では,労働量だけではなく、職場の人間関係、業務の肉体・精神的負担なども重要な判断要素となります。企業は、労働者の労働時間だけではなく、労働者の職場における人間関係や、当該労働者に与えた業務から同人に重い肉体的・精神的負担が生じていないかという点にも配慮が必要です(佐藤未央)。
参考:民法415条、709条
2 裁判例紹介―最高裁平成23年1月18日判決
「ロケーションフリー」は、地上波アナログ放送のテレビチューナーを内蔵し、受信する放送を利用者の操作によってデジタルデータ化した上、インターネットを介して自動的に送信する装置(以下「ベースステーション」とします)を中核とする、テレビアンテナに直接接続していないPC端末等でもTV番組を視聴することを可能とする商品です。
「まねきTV」サービスは、入会金3万1500円、月額使用料5040円の支払いを受けて、会員からベースステーションを受領し、電源を供給、起動してポート番号などの必要な各種設定を行い、テレビアンテナとインターネットに接続し、この状態を維持する株式会社永野商店(以下「永野商店」とします)のサービスです。
民放キー局及びNHK(以下「TV局」とします)は、ベースステーションがTV局の番組(以下「本件番組」とします)を送信可能化している、また、本件番組を会員のPC端末等に送信することは自動公衆送信にあたるなどとして、永野商店に対し、TV局の送信可能化権、及び、公衆送信権を侵害していると主張して本件訴えを提起しました。
知財高裁は、かかるTV局の主張に対し、各ベースステーションは、あらかじめ設定された単一の機器宛てに送信するという1対1の送信を行う機能を有するにすぎず、自動公衆送信装置とはいえないのであるから、TV局の送信可能化権も公衆送信権も侵害していないとして、TV局の請求を棄却しました(知財高裁平成20年12月15日判決)。
これに対し、最高裁は、「あらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても、当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは、自動公衆送信装置に当たるというべきである」とした上で、「(自動公衆送信の)主体は、当該装置が受信者からの求めに応じ、情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり、当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、これに継続的に情報が入力されている場合には、当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である」、「永野商店は、ベースステーションを、分配機を介するなどして自ら管理するテレビアンテナに接続し、当該テレビアンテナで受信された本件放送がベースステーションに継続的に入力されるように設定した上、ベースステーションをその事務所に設置し、これを管理しているというのであるから、利用者がベースステーションを所有しているとしても、ベースステーションを用いて行われる送信の主体は永野商店であるとみるのが相当である」、「そして、
何人も永野商店との関係等を問題にされることなく、永野商店と契約を締結することにより本件サービスを利用することができるのであって、送信の主体である永野商店からみて、本件サービスの利用者は不特定の者として公衆に当たる」などとして、「ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり、したがって、ベースステーションは自動公衆送信装置に当たる」と判断し、原判決を破棄し、損害額等について更に審理を尽くさせるため原審に差し戻すこととしました。
最高裁判決と知財高裁の違いですが、まず、知財高裁は「自動公衆送信装置」について、「『公衆によって』直接受信され得る無線通信又は有線電気通信の送信を行う機能を有する装置」であると定義した上で、べースステーションはいわば1対1の送信を行う機能しか有していないから「自動公衆送信装置」には当たらないという解釈をしたのに対し、最高裁は、このような1対1装置を用いていても「当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは、自動公衆送信装置に当たる」として、自動公衆送信装置の定義を、「自動公衆送信のために利用される装置」と拡張しました。
この点については、刑事罰を科している著作権法においてこのような拡大解釈を許すべきか否かは別の問題として、極論すれば、公衆送信のために1個の大きな送信装置を用意するか、利用者1人1人に専用の送信装置を用意するかという「技術的手段の差」しかないため、解釈論としては許容される範囲かもしれません(「ハウジング業者はすべて自動公衆送信をしていることになってしまう」という批判もありますが、「『送信主体が自動公衆送信をしている場合には』、自動公衆送信装置である」としているので、自動公衆送信装置の拡大解釈には一定の歯止めが設けられています。)。
これに対し、ベースステーションの作動は、あくまで利用者がPC端末を操作によって開始されるのであり、永野商店は関与しないにもかかわらず、「当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、これに継続的に情報が入力されている場合には、当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である」とした上で、「ベースステーションを自ら管理するテレビアンテナに接続し、その事務所に設置し、これを管理している」という点をもって「ベースステーションを用いて行われる送信の主体は永野商店である」としている点については、難のある解釈ではないかとの批判も出ています。
「まねきTV」サービスは、海外在住者の「日本のTVがオンタイムで見た
い」というニーズを捉え、著作権法の隙間を突いてこれを実現しようとしたチャレンジだったため、今回の最高裁の法解釈については賛否両論がありそうです(鈴木理晶)。
参考:最高裁平成23年1月18日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110118164443.pdf
知財高裁平成20年12月15日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081216170214.pdf
著作権法2条1項7の2、9の4、9の5、23条1項