第2回 パブリシティ権の侵害

パブリシティ権

1 侵害基準

(1)本判決が示す侵害基準

 前回はパブリシティ権の法的性質を主に紹介しましたが、今回は、どのような場合にパブリシティ権の侵害となるのかについて説明していこうと思います。パブリシティ権の侵害基準については、本判決が以下の通り判示しています。

 「他方、肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるのであって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると、肖像等を無断で使用する行為は、〔1〕肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、〔2〕商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、〔3〕肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為上違法となると解するのが相当である。」

 このように判例は、パブリシティ権の侵害態様について3つに類型化し、「専ら」顧客吸引力の利用を目的とした場合に限りパブリシティ権の侵害を認めました。以下では、類型別に具体例を紹介していきます。

(2)第一類型

 「肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する」ものの具体例としては、ポスターや写真集等が挙げられます。また、本判例において金築誠志裁判官の補足意見では、グラビア写真をこの類型の例として挙げています。もっとも、本類型に該当するには、「独立して鑑賞の対象」といった、独立要件が必要ですから、例えばネット記事で小さく写真が掲載されるように、あくまで記事主体で、写真が添え物のように扱われている場合においては、かかる写真それ自体が独立の鑑賞の対象になっていないので、独立要件を欠き、写真の使用はパブリシティ権の侵害に当たらないと思われます。

(3)第二類型

 「商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し」たものの具体例としては、カレンダー、Tシャツ、タオル、マグカップ、トートバッグ、インターネットのプロバイダサービス等、多種多様なものが挙げられます。いわゆるキャラクター商品はこの類型に該当します。

(4)第三類型

 「肖像等を商品等の広告として使用する」ものの具体例としては、文字通り、テレビ広告や電車の中吊り広告等が挙げられます。

2 「専ら」「商品等」「肖像等」の意義

(1)「専ら」

 本判決は、判断基準として「専ら」という用語を使用しています。そして、ここでいう「専ら」とは、「only」ではなく「mainly」という意味を含みます。すなわち、「主として」という用語に言い換えることができます。

(2)「商品等」

 前述した三類型にある「商品等」とは、商品又はサービスとして「商品化」されたものをいいます。つまり、パブリシティ権の侵害に当たる行為は、肖像等を商業的に利用する行為に限られ、私的に肖像等を利用する行為はパブリシティ権の侵害にはあたらないといえます。例えば、インターネット上の個人のブログに芸能人の肖像写真を掲載しても、それが私的利用ならば、同肖像写真は「商品等」に当たらないと考えられるのです。

 もっとも、ブログの閲覧数やその他の事由で何らかの金銭的利益が発生するようなシステムをとっている場合は、同肖像写真の顧客吸引力に依拠して利益を得ている可能性がありパブリシティ権の侵害にあたりうるので注意が必要です。

(3)「肖像等」

 「肖像等」とは、本人の人物識別情報をいいます。例えば、顔はもちろんのこと、サイン、署名、声、ペンネーム、芸名等を含みます。本判決は「肖像等」を「個人の人格の象徴」とも述べていることから、個人の人格とは言えない法人にはパブリシティ権は認められません。なお「肖像等」に関しては、パブリシティ権の客体(第4回)で問題や課題等を具体的に検討する予定です。

3 侵害の範囲と表現の自由

 本判決は、上記のようにパブリシティ権の侵害基準を三類型により明確にし、「専ら」要件で限定しています。このような基準を用いたのには、パブリシティ権と表現・創作の自由との抵触の可能性という問題が一つの要因になっていると考えられます。

 ネット記事や雑誌の記事を例に挙げると、これらは文章を主体としつつも同時に芸能人の肖像写真を掲載しているものが多くあります。しかし、記事作成者にとってみれば、読者に記事の内容を分かりやすく伝えるために写真を用いてるにすぎない場合もあるでしょう。しかし、仮にパブリシティ権の侵害基準があいまいであった場合、そのような事情で写真を用いてもパブリシティ権の侵害になるかもしれないと危惧し、写真の掲載を躊躇することが起こり得ます。このように、侵害基準があいまいであると、表現方法を委縮する効果、すなわち表現の自由の委縮効果を招く恐れがあるのです。本判決はこのような表現の自由や創作の自由といった価値と、パブリシティ権の価値との抵触をできるだけ防ぐために、上記のような侵害基準を採用したと考えられます。そう考えると、本判決の「専ら」要件は、自己の表現行為と他人の肖像等の利用を調整するものとして採用されたのではないかと思います。

 したがって、先ほどのネット記事や雑誌記事が三類型の行為に該当する場合、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」にあたるか否かは、自己の記事と他人の肖像写真等の分量、質、割合、内容、目的等を比較衡量することによって判断することになります

4 次回にむけて

 今回はどのような場合にパブリシティ権の侵害となるかについて説明しました。では、そもそもパブリシティ権はいったい誰が主張することできるのでしょうか。次回はパブリシティ権の主体について説明したいと思います。

Category:パブリシティ権

著者
薮田崇之>
薮田崇之

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