第1回 パブリシティ権の法的性質

パブリシティ権

1 定義

 パブリシティ権とはいかなる権利なのか、まずはその定義を紹介します。
 
パブリシティ権は、日本においてその権利に関する明文の規定はありません。しかし以前から、多数の下級審裁判例で認められてきました。そして、平成24年になって、初めて最高裁がパブリシティ権とは何かということに言及し、パブリシティ権を権利として承認しました。その判決こそ前記ピンク・レディー事件判決【最判平成24年2月2日(民集66巻2号89頁)】(以下「本判決」という)です。参考として判決文の一部を紹介します。

 「(1)人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される(氏名につき、最高裁昭和58年(オ)第1311号同63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁、肖像につき、最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁、最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁各参照)。そして、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下、「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。」

 本判決によると、要するにパブリシティ権とは「商品の販売等を促進する顧客吸引力を排他的に利用する権利」であることがわかります。

図1.png

 ではパブリシティ権とはいったい法的にどのような性質のものなのでしょうか。本判決をもとに説明します。

2 パブリシティ権の法的性質

(1)人格権

 本判決によると、パブリシティ権は「上記人格権に由来する権利の一内容を構成するもの」とあります。「由来する」とか「一内容を構成する」とか若干微妙な表現であり、どうもパブリシティ権がどのような性質の権利なのかピンきません。そこで簡単ではありますが、パブリシティ権の法的性質を本判決を参考に説明していきます。

 ア 人格権

 まず、基本的な知識として、「人格権」について簡単に説明します。「人格権」とは一般的に、法的に保護される権利のうち人格的利益(人間の人格と切り離すことができない利益)を保護する権利であるものと理解していただいて構いません。そして本判決は人格的利益を保護するものとして、肖像等をみだりに利用されない権利を承認しています。(なお、このような権利の一般的な承認は本判決が初めてです。)そして、この人格権と対比される権利が「財産権」であり、ここでいう「財産」は例えば、お金や土地、商品等の経済的価値があるものなどが挙げられます。
 
すなわち、一般的理解としては「人格権」は人格的利益を保護する権利を指し、「財産権」は財産的利益を保護する権利を指します

図2.png

 イ パブリシティ権は人格権ではないのか

 本判決では、パブリシティ権は「肖像等それ自体の商業的価値に基づくもの」であるとされています。とすると、パブリシティ権は商業的価値を保護する権利としての「財産権」に属するのではないかとも思えます。しかし本判決は、パブリシティ権は人格権に由来する権利の一内容を構成するとあり、あくまで「人格権」に属するものととらえています。

 すると、パブリシティ権は、人格権に含まれる権利でありながら、その権利が保護する対象は財産権が保護するような財産的価値ということになり、先ほどの一般的理解と異なるように思えます。一体どういうことでしょう。

 すなわち、「人格権」に由来するもの(権利)には、今回の肖像等のように「誰かにみだりに見られたくない」といった人格的価値だけでなく「顧客吸引力」といった財産的価値の両方の側面を有するものがあります。そして本判決は、そのような場合の「人格権」とは、人格的利益だけでなく財産的利益も共に保護する権利であり、その上で、①人格的利益を保護する権利として「肖像等をみだりに利用されない権利」を、②財産的利益を保護する権利として「パブリシティ権」を承認したと考えることができるのです。

したがって、パブリシティ権は、人格権に含まれる権利で、人格権において保護される利益の中で特に財産的利益を保護する権利であるという法的性質を有するといえるでしょう。

(2)いわゆる肖像権とパブリシティ権との違い

 皆さんは、「肖像権」という言葉はよく耳にすることでしょう。例えば、ブログに勝手に写真を掲載されて「肖像権の侵害だ」といったような具合に。そもそも正確には「肖像権」という権利が判例で一般的に承認されてはいませんが、ここでは説明のために「肖像権」という用語を使います。では、この「肖像権」という用語と「パブリシティ権」という用語を意識して使い分けることができるでしょうか。

 一般人のAさんが、写真やテレビに顔を勝手に載せられた場合に「肖像権」が侵害されたと言います。このときAさんはどんな権利を侵害され、どのような損害を負ったのでしょうか。もし、Aさんが、「みだりに(勝手に)顔を公開されない権利」の侵害を主張し、勝手に載せられて恥ずかしい思いをしたからその精神的損害を賠償してほしいというのであれば、それは人格権のなかでも、前述したように人格権的利益を保護する「肖像等をみだりに利用されない権利」を主張し、精神的な損害の賠償請求を主張しているといえます(上記①)。

 他方、有名人のBさんが、赤の他人であるCさんのブログに顔を勝手に掲載されて肖像権の侵害だと主張した場合はどうでしょうか。この時、もしBさんが先ほどのAさんと同じ主張をしたならばそれは①主張していることになります。しかし、もしもBさんが、「Cさんは私の写真を勝手に利用してお金もうけをしている。私が損しているから許せない」といった考えであったとしたらどうでしょうか。皆さんがもうお分かりの通り、この場合、Bさんが肖像権の侵害だと言っているのは、実はパブリシティ権の侵害を意味しています(上記②)。つまり、この場合Bさんは、「パブリシティ権」の侵害だと主張することになります。

 したがって、誤解を恐れず言えば、いわゆる肖像権は肖像等に関して人格的利益が侵害されたときに使う用語であり、パブリシティ権は肖像等に関して財産的利益が侵害されたときに使う用語として理解してもらえばよいです。
両者の違いは、簡単に言えば、侵害されている利益の性質の違いなのです。
以上を簡単に図解すると次のとおりになります。

図3.png

 

3 具体的課題の検討

(1)譲渡性

 ア 譲渡の可否

 ここまではパブリシティ権の法的性質を紹介してきました。しかし、パブリシティ権は承認されてまだ日が浅く、立法による支えもない若い権利です。それゆえパブリシティ権をめぐる課題は山積しています。そこでパブリシティ権が抱える課題について考えていきたいと思います。

 先ほど、パブリシティ権が人格権か否かについて説明してきました。なぜ基本の説明に留めると言っておきながら法的性質というような難しい点について説明をしたのか。それは、パブリシティ権の法的性質によって権利関係に影響が出てくるからです。

 前述したとおり、人格権は基本的には人格的利益(人間の人格と切り離すことができない利益)を保護する権利であると説明しました。そうすると人格権はその人固有の権利で一身に専属の権利であるといえます。したがって、人格権はその権利を譲渡することはできない権利であるのが原則です(参考として著作権法59条)。

 しかし、パブリシティ権は人格権のなかでも財産的利益を保護する権利です。財産権は原則的に譲渡可能です。とするならば、財産的利益を保護するパブリシティ権も同じように譲渡できるのではないかと考えられないでしょうか。ちなみに米国やドイツでは譲渡を認める傾向にあります。

 ところが本判決ではパブリシティ権の譲渡の可否については何ら言及がありません。つまり、現在において、パブリシティ権の譲渡の可否については結論が出ていないのです。

 イ ビジネスへの応用

(ア)利用許諾契約

 さて、パブリシティ権の譲渡の可否について結論が出ないと困るのが、芸能プロダクション、テレビ制作会社、映画会社等、顧客吸引力の商業的価値をビジネスとして利用したい方々でしょう。当該譲渡が可能であれば、自由に権利を利用することができますが、仮に譲渡が認められないとき、彼らはどうすればそれらを利用できるでしょうか。

 解決策の一つとしては、パブリシティ権利用許諾契約の締結です。すなわち、権利の利用を個人から許諾してもらうのです。パブリシティ権は財産的側面を持つものであるから、その利用を許諾することは可能です。もっとも、パブリシティ権にも人格的側面が内在していることを考えると、利用許諾契約を締結する際は、個人の人格的利益の側面を侵害しないように、利用許諾の範囲を明確にするといった配慮が必要であると考えます。

(イ)芸能プロダクション等の権利

 有名人等は、強力な顧客吸引力を有することから、有名人等を抱える芸能プロダクションは、彼らのパブリシティ権を利用することで莫大な利益をあげることができます。では、実際利用許諾契約を締結すると、どのような権利行使が可能となるのでしょう。

 パブリシティ権は、「顧客吸引力を排他的に利用する権利」ですから、仮に第三者が勝手に有名人等の顧客吸引力を利用した場合、その権利者である有名人等は個人として損害賠償請求と共に差止請求もすることが可能です。しかし、かかる権利は人格権に基づくもので、権利者個人に帰属するするものであるから、芸能プロダクションがその有名人等のパブリシティ権侵害を主張して、かかる請求をすることは原則的にできません。そこで、芸能プロダクションとしては、所属する有名人等との間で独占的利用許諾契約を締結することが有効です(契約内容について工夫が必要ですが本稿で割愛します)。独占的利用許諾契約を締結すれば、芸能プロダクションも、当該契約に基づき発生した債権の侵害として損害賠償請求が可能となります。また、当該契約のなかでも権利者個人に侵害排除義務を課す(契約内容の詳細については同じく割愛)といった条項を加えれば、プロダクションの固有の権利としてプロダクション自身が差止請求をすることも可能です(法律構成としては債権者代位構成)。

 このように、パブリシティ権をビジネスとして利用するためには、きちんとした契約を結ぶことが必須となってきます。

(2)相続性

 次の課題となるのはパブリシティ権の相続についてです。何度も言うようにパブリシティ権は一身専属性の権利であるから、相続の対象にはならず(民法896条参考)、個人が死亡したら権利も消滅するのが原則です。

 しかし、有名人等の中には、亡くなってもなお顧客吸引力を有する方々がいます。そうすると、亡くなったからといって、彼らの肖像等を自由に利用できるのはどうもしっくりきません。

 もっとも、本判決では相続性についても言及されておらず、相続性についても宙ぶらりんの状態です。また、相続を認めるとしても、相続後の権利が何年保護されるのか(また、保護されるべきか)という議論も必要となってきます。

4 次回に向けて

 今回は、第1回ということで、パブリシティ権とはどのような権利かを述べ、その法的性質から生じる課題について軽く触れました。そして、パブリシティ権をビジネスとして利用する際は、権利侵害をされたときの対策として契約の重要性にも言及しました。しかしここで、ではいったいどのような行為がパブリシティ権を侵害するのか疑問にもった方々もいることでしょう。
そこで次回はパブリシティ権の侵害について説明したいと思います。

Category:パブリシティ権

著者
薮田崇之>
薮田崇之

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