資本主義は1ドル1票、民主主義は1人1票

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知人でもある平塚基巳さん(国際公認投資アナリスト)の10月31日のニュースレター(※1)を読んだ。

本題は、各国のバタフライ・スプレッド(5年債の金利の2倍から、10年債と2年債の金利を引いたもの)をヒントに米国の量的緩和(QE)の打ち切りなどについてコメントされているものですが、次の記述が気になった。

「スタグフレーション」という言葉があるように、インフレ=景気回復とは言えないケースが多々あることも事実であり、
現状、日本が迎えているインフレは、実は主にエネルギー・コストの上昇と消費税増税という景気の良し悪しとは違うベクトルによるインフレと、ある意味成功している「期待に働きかける」効果による資産価格上昇によるベクトルなので、資産効果を享受できるセグメントにとっては、景気回復&インフレと捉えられる一方、資産効果を享受できないセグメントにとっては、単なるコスト・プッシュ・インフレであり、景気回復を伴っていないと感じることとなります。
実質所得の階層別伸び率などが、正にそれを顕著に表しています。

90年代の米国のジョブレス・リカバリーも、小泉・竹中時代の格差拡大も、そして中国の「富めるものから富めよ」政策も、皆本質は同じです。
日本以外はある程度の時間を継続することができ、結果的に資産効果の波及によって、貧富の格差を拡大はさせたものの、経済全体は浮揚させることができました。
日本の前回は、格差の拡大を許容できなかったため、十分な時間も稼げず、資産効果の波及が起きず、結果経済全体はデフレに戻ってしまったわけです。

英国(のバタフライ・スプレッド)は結構プラス・ゾーンとマイナス・ゾーンを行ったり来たりしています。
これはつまり、デフレ時においても、政策の方向性によっては株価はポジティブな動きをすることがあるということでしょう。
選択と集中というべきか、デフレの悪影響のコストをどのセグメントが負担するかの差だと思います。
日本はコスト負担が企業に重くなり、米国や英国は企業より社会に重くなる。
当然コスト負担が重いセグメントは、パフォーマンスが悪いわけですから、日本の場合は極端に失業率が上昇したり、治安が悪化することが無い一方、企業収益は低迷し、株価及び企業の国際競争力も下がる傾向を辿ります。一方、欧米においては、社会は荒れるけれど、強い企業はより強くなる、故に格差が拡大し、それが更に強者を強者にしていく。当然強者を集めた主要株価指数は上昇傾向となる、といったところでしょうか。

全くその通りだと思ったので、私がいつも思っていることを次のようにメールしました。
「生産効率がもっと良くなると、人間のやる仕事が、意思決定と人間臭い仕事しか無くなる。
人間臭い仕事はやりたくないから働く人が減って、貧富の差が更に開く。
しかし、一人一票の民主主義は崩せないから、所得の再配分を権力で行う社会にならざるを得ないのではないかと、思います」 
業務効率の上昇がこれから益々進んでいく(二人でしていた仕事が一人でできるようになったり、人のやっていたことを機械が完全に代替してしまう。)ので、労働力需要が右肩下がりになり、仕事の無い人が増える。景気浮揚、株価上昇しないと一人当たりGDPは増えていかないが、そっちに舵を切りすぎると、こらから更に増えるであろう株を買うだけのお金の無い家庭には物価上昇の痛みだけがもたらされる。弱者切り捨てを進めていくと、そのうち、Them belly full but we hungry. A hungry mob is an angry mob.という状況になっていく、どうしたもんでしょうね?と。 

そうしたら、平塚さんから以下レスがあった。
「資本主義は1ドル1票、民主主義は1人1票。
1ドルと1人の差が少ない時は、両者の選択するものの差は少なかったですが、貧富の差が開くと、選ぶ結果に大きな隔たりが発生します。
これが、今起きていることの本質であり、故に簡単に解決するのが難しいのかなと。」

「資本主義は1ドル1票、民主主義は1人1票。」は、けだし名言だと思う。

日本では、貧困家庭が全世帯の1/4を超えたとも言われているが、これが過半数を超えたら超福祉国家政策をとる政党が政権をとることになる。所得の再配分だけでなく、資産も再配分することになだろう。すでに、累進税制と相続税の重税化は始まっている。
インターネット時代では、「由らしむべし知らしむべからず」は通用しない。
ある程度再配分の強化が進むと、子供に何も残せないのでは嫌だから、金持ちが海外に逃げ出す傾向がより顕著になっていくだろう(金も権力もあるのに政治を変えようとせずに逃げるのは良くないとは思いますが、)。

経済成長と福祉のバランスをとりながら国家運営をするのは、国民の側から見ると、右左どちらの立場から見ても不十分であり、はっきりしない、決められない政府と見られるかもしれないが、そこを我慢して、微妙な中道を行くことができるのが大人だと思う(大人にしかできないことでもある。)。

なお、平塚さんは、昨日(11/7)のニュースレターで、連合がGPIF基本ポートフォリオ変更を批判する談話を公表したことについて、「いよいよ出てきました!格差許容か?停滞甘受か?本質的な戦いの火蓋が切られるのでしょうか??」と結んでいました。

新たな階級闘争の時代に入っていくのだろうか、、、、、

※1ご本人は、「ニュースレター」と定義していません。また上記は、私が適当に抜粋したものです。
※「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の基本ポートフォリオ変更に対する談話(連合)」
http://www.jtuc-rengo.or.jp/news/danwa/2014/20141104_1415082369.html
※中期計画の変更について(年金積立金管理運用独立行政法人 )
http://www.gpif.go.jp/topics/2014/pdf/1031_midterm_plan_henkou.pdf
※引用については、平塚氏の許諾を得ました。

 

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古田利雄>
古田利雄

主にベンチャー企業支援を中心に活動しています。上場ベンチャー企業、トランザクション、NGC、Canbas等の役員もしています。

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