PC・モバイル端末データと民事裁判の証拠

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20年位前には、PCやモバイル端末を使う人はあまりいなかったから、裁判の証拠といえば、紙に書かれた情報と証人が主なものだった(そのころ私は駆け出し弁護士として東芝のワープロやマックで文書を作っていた)。しかし、最近は、誰もがPCやモバイル端末を使い、その都度データが生成されるので、裁判でもこれらのデータが証拠として利用されるケースが増えている。

大相撲賭博では、警察は力士のモバイル端末とキャリアに対する照会によって、力士に言い逃れしようのないような証拠を突きつけた。

職員が残業しても残業代を認めない(いわゆるサービス残業)会社に未払残業代の支払を求める事件では、従業員がパソコンのログインとログアウトの履歴を使って、定時を超えて職場に居残っていた実態を立証する事例が多い。また、そのカウンターとして、会社側は、従業員のPCの作業履歴を解析して、就業時間中にオークションサイトで内職したり、旅行サイトを長時間にわたって閲覧していたことを反証できたというケースもある。
そのほかにも、会社の営業秘密情報の漏えいなど様々なケースでデジタルデータによる立証が試みられている。

デジタルデータにもある程度の信用性があることを悪用して、法の番人ともいうべき検察庁が、被疑者とされた厚生労働省の職員を犯人に仕立てるために、この人が作成したフロッピーディスクのデータの日付を検察側のストーリに合うように書き換えるという事件まで発生した。
PCやモバイル端末で許されていないことを行った者は、そのデータを消去しようとする。ところが、これらの端末には様々な情報が残るし、消去したデータすらも復旧できる場合が多い。
データを改ざんしたとしても、他に残った膨大な作業履歴などと突合させると矛盾が明らかになることもある。
大阪地検の証拠偽造のケースでも、FDの日付は書き換えることができたが、OSに残った作業履歴は元のまま残っていたし、この手の書き換えは、ファイル操作の連続性を丁寧に拾っていくと整合性のほころびが見つかるという。

PCデータを復旧するプロに依頼すると、たとえば以下のような情報をとれる可能性がある。
・顧客へのメールへの発送履歴
・ネット利用履歴
・タイムスタンプ情報
・USBメモリへのダウンロード履歴
・通話履歴(何処の、誰と、いつ、何時間話したか、インバウンドかアウトバウンドか、会話したか)
・サーバーへのアクセスや変更作業履歴
・データが意図的に消されたものか(改ざんソフトのインストール履歴)

もっとも、デジタルデータは改ざんが容易だから、証拠化するためハードウエアを解析するならば、原本を正確にコピーして原本は触らずに保管するとか、ハッシュ値の確認、一連の作業を録画するなど、適切な手続のもとで解析が行われたことが客観的に担保できているようにする必要がある。(こういった局面では、勝手に触る前に、是非この手のことが分かっている弁護士に相談してほしい。)

このように端末に残るキャッシュ等がユーザーのプライバシーに対する脅威であることが認識されるようになってきたので、OSも不必要なデータを溜め込まない方向に進化しつつあるという。
そうすると、企業は従業員のPCやモバイル端末からこれまでのように証拠を取得できなくなっていく。そこで、最近では、会社が、従業員の使っているPCにあらかじめインストールしておいて、その端末でどのような作業がなされたかをすべて記録し、作業画面を早回しで見ることができるソフトも登場している。つまり、当該PCを使った問題行動があったと思われる数日間の画面の動きを数分間でレビューすることができ、機密ファイルのダウンロードや業務外のネットサーフィンなどの非行行為を把握することができる(怖っ)。

良い職場なら、従業員は業務に熱中していて非行行為を行う暇などないはずだが、モチベーションの下がった職場、非行行為が疑われる特定の従業員がいる場合など、データフォレンジックや記録ソフトは企業防衛のツールとなりうる。

By the way

ネット上や、端末に残るデータ、街頭監視カメラ、三次元顔形状データベース自動照合システム、歩行者挙動データ(歩き方の特徴による個人照合システム)などによって、人々の行動を正確に追跡することができる範囲は益々広がっていく。

そうなると「悪いことをすると早晩バレるから、悪いことはしない。」と皆が思う社会がくるだろうか?
そして、悪い行動が希少価値になれば、今より悪さ(被害の大きさ×悪さ)が軽度なものでも、重罪人として社会の厳しい批判を浴びるようになるだろうか?
そのような人は立派に更生しても、相手が氏名をググれば過去の過ちが露見してしまうといったことにならないか?
と色々なことが頭をよぎる。

警察や検察庁を顧客としているAOSテクノロジーズというデータ復旧と解析をしている会社の事例集が面白いので、参考までに揚げておく。弁護士事務所もお客さんになっている。
http://fss.jp/case.html
データ復旧や解析の専門性がある若者は、この手のベンチャービジネスを立ち上げたらどうだろうか。まだまだ、マーケットとしてはこれから伸びていきそうな気がする。若者チームだったら柔軟な価格設定で勝負もできると思う。

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TAGS:デジタル・フォレンジック データ復旧 デジタル証拠 モバイル端末のデータ 民事裁判

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古田利雄>
古田利雄

主にベンチャー企業支援を中心に活動しています。上場ベンチャー企業、トランザクション、NGC、Canbas等の役員もしています。

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