講義録 ダスキン事件

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昨晩(3月8日)、今週2回目の講演をした。取締役の善管注意義務について理解を深める目的で、ダスキン事件を素材にセミナーを行った。参加者は15名。大企業からコンサルタントまで、若者からシニアまで、Hi-NETというクローズドSNSの様々な人たち。

以下の事実関係を前提として、社長、取締役KとS、その他の取締役の責任を考えてもらった。やり方はソクラテスメソッドで、もっぱら私が参加者に質問しながら進める。ロースクールでやっていたのと同じ方法だ。

質問は、参加者の回答によって臨機応変に変える。

私)この事案で取締役が任務を怠ったかどうかが問題となりそうな事実関係はどこでしょう?

参加者A)無認可薬剤が使われたことを知ったにもかかわらず、販売を決定したことです。

私)ありがとうございます。それは食品衛生法違反、つまり法令違反なので取締役の善管注意義務違反になるという見解ですね。Aさんと違う意見の方はおられますか? TBHQは、米国でも中国でも認可されていて、日本で無認可なのは例外的な事象のようですが。

参加者B)たとえ毒性がないから実害は生じないとしても、ルール違反である以上善管注意義務に背いているというべきだと思います。

私)今、販売を決定した時点を問題にしましたが、この事例でそれ事前の段階で取締役の責任が問題になることはないでしょうか?

参加者C)H社は、結果として無認可薬剤が混入した製品を作ったわけですから、製造委託先の選定が正しかったのかが問題になると思います。

参加者D)会社としては、現地調査などもしているようですから、そこまで責任は問えないのではないかと思います。

参加者C)私は食品メーカーの仕事をしていたのですが、厳格な会社では、製品ができたら検査会社に分析を依頼しているところもあります。

私)この問題は、平たく言うと、その分野の一般的な会社であれば、どの程度の水準の注意をしなければならないかを想定して、それをクリアしているかどうかを考えることになります。したがって、時代によっても水準は変化していきます。・・・

というように続いていきます。

ダスキン事件において裁判所は、意図的に事実を隠ぺいしようとした役員SとKにそれぞれ約50億円、事実を公表しなかった(消極的な隠ぺいを行った)代表取締役に約5億円、その他の役員にそれぞれ約2億円の賠償を命じた。

縦割りの事業部制をとっていたこと、コンプライアンスへの取り組みをしていたことなどからすると、「その他の役員」に責任を認めたことには、様々な意見があると思う。その様々な意見をぶつけ合ったことによって、取締役の責任について理解が深まった(とともに頭の体操にもなった)と思う。参加者の皆さんは理屈のやりとりを楽しめたように感じたし、私も「そういう考え方もあるのか(特に損害論のところで)」と思うような意見もあり、楽しい90分間でした。

法化社会の実現(正義のルールにのっとって社会が運営されていくことを実現する)が、私のミッションの一つです。こういったセミナーを開くならお手伝いします。

>>>>>ケース 事案の概要>>>>>>>>>>>>>>>>>

1 本件会社の組織

本件会社は,大別して五つの事業部門(生産本部,訪販事業グループ,ケアサービス事業グループ,フードサービス事業グループ,レントサービス事業)と管理部門(人事本部,総務本部,経理本部等)とから成り立っており、全事業部門を「完全資金独算会社」とし,権限と責任を各事業部門の責任者に委譲する旨の稟議規定の改定を行った。

 本件会社のフードサービス事業グループ(担当専務取締役S)は,フードサービス事業本部(本部長取締役一審被告Y5)とFC本部(本部長取締役K)とから成り立っていた。

2 H社との間の製造委託契約の締結

本件会社は,H社(店頭登録企業)に対して,現地調査,信用調査会社による信用調査等による必要な情報の収集,書類審議,工場調査(生産体制・品質管理体制の調査)などの手続を経て製造委託契約を締結した。

3 本件会社は,違法行為防止に関する取組として以下のア~エを実施していた。

ア 危機管理行動チェックリスト

イ 稟議規定

ウ 社員研修

エ 危機管理セミナー

4 新メニューへのTBHQの混入及び本件販売

H社が原材料として使用したショートニングの中に,TBHQが含まれていた(TBHQ(g)/新メニュー重量(kg)=0.00012g/0.12kg=0.001g/kg 甲4の1,2)。

Nは,本件会社からH社のような受注を受けるため, H社の使用している材料等を取り寄せて調査している間に,H社が製造している製品に日本では認可されていないが中国では使用が認められているTBHQが含まれたショートニングが使用されていることを発見した。

Nは,平成12年11月30日,本件会社商品本部プロダクトマネージャー統括部長のE,Nの同僚のO専務,Gが参加した試食会の席上で上記を公表した。

Eは,直ちにKにこのことを報告し,同人は,事実関係を至急調査するように指示した。

H社は,同年12月2日,新メニューに日本で使用が許されていない添加物が含まれていることが判明したため,自主的に操業を停止した。本件会社から出張した品質管理担当者は,同日,Eに対し,日本では使用が許されていないTBHQが新メニューに混入していることと,午後からの工場の操業停止を報告した。

Kは,同日ころ,Sに対し,H社が製造した新メニューに日本では使用が許されていない添加物であるTBHQが混入していた旨を連絡するとともに,国内の公的機関に新メニューの食品分析を依頼しており,同月6日に結果が出るので,在庫品の廃棄等は待って欲しい旨要望し,Sはこれを了解した。

S及びKは,平成12年12月8日ころ,H社が製造した新メニューについて,加盟店や国内外の倉庫等に当該新メニューの在庫がある限度で販売を継続すること(以下「本件販売継続」という。)を決定し、同年12月20日ころまでの間に,テスト販売期間中に販売したものも含め,TBHQが含まれた新メニューを1314万個販売した。

5 Nに対するいわば口止め料の支払い

本件会社は、Kの指示によって、Nに対して、平成12年12月ころ、合計6300万円を支払った。

6 本件会社の本件販売後の対応等

本件会社は,本件販売及び本件支払について調査するために,「FC調査委員会」を発足させ、同委員会は社長宛てに平成13年11月6日付けで調査報告書を提出した。

本件会社は,前記FC調査委員会の調査報告書の提出を受けて,平成13年11月29日開催の取締役会において,本件販売および本件支払に関し,Kの取締役辞任を受理すること,Sとの間の顧問契約を解約すること,一審被告Y11を1か月間100分の10の減給とすること等の処分を決定した。

本件会社の社長らは,そのころまでに,本件会社の最高経営顧問らの意見も聴取した上,直ちに自ら積極的に公表することはしないことを決定し,同月29日に行われた上記取締役会でも,自ら積極的に公表しないことについて明示の議決はされていないが,そのことを前提として,他の議案が可決された。

エ 本件会社の本件販売については,厚生労働省への匿名による通報があり,平成14年5月15日,保健所がフランチャイジーに立入検査をしたことをきっかけとして,同月20日,共同通信社から本件会社に対し取材がされた。そこで,本件会社は,同日,記者会見をして,本件販売の事実を公表した。

翌21日以降,新聞等のマスコミで本件販売及び本件支払等について,大きく報道された。特に,本件会社が食品衛生法上使用が許されていない添加物を含んだ新メニューの販売を故意に継続するという食品衛生法違反行為を行ったこと,当該事実を指摘した業者に「口止め料」を支払ったこと,更に,一審被告Y1により隠ぺいがされたこと等の疑惑が大きく報道された。

7 本件をきっかけに会社が負担した支出 105億6100万円

① ミスタードーナツ加盟店営業補償 57億5200万円

② キャンペーン関連費用 20億1600万円

③ CS組織員さん優待券及びSM・MM等特別対策費用ほか 17億6300万円

④ 新聞掲載・信頼回復費用  6億8400万円

⑤ 飲茶メニュー変更関連費用 3億4600万円

著者
古田利雄>
古田利雄

主にベンチャー企業支援を中心に活動しています。上場ベンチャー企業、トランザクション、NGC、Canbas等の役員もしています。

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