非上場会社で行われた新株発行が「特ニ有利ナル発行価額」に該当するか否かが争われた判例

会社法新株発行

 本件は、A社の株主Xが、A社の取締役であったY1らに対し、平成16年3月に実施されたA社の新株発行における発行価額は旧商法280条ノ2第2項の「特ニ有利ナル発行価額」にあたるにもかかわらず、Y1らは理由の開示を怠ったから、旧商法266条1項5号の責任を負うなどと主張して、旧商法267条に基づき、連帯して22億5171万5618円及びこれに対する遅延損害金をA社に支払うことを求めた株主代表訴訟に関する判例です(最高裁平成27年2月19日判決)。

 

 平成12年5月、当時非上場会社だったA社は、株式上場を計画し、新株引受権の権利行使価額を1株1万円とする新株引受権付社債を発行しました。

 しかし、その後、A社の業績は下向きとなり、平成13年頃から、役員、幹部従業員等の退職が相次ぎました。その際、A社の代表取締役Y1らは、1株1500円で退職者が保有するA社の株式を買い取りました。

 A社は、平成14年7月から同年10月までの間、Y1からA社株式の一部を1株1500円で購入して自己株式としましたが、取引銀行からの要請等を踏まえ、平成15年11月、Y1に対して自己株式を1株1500円で売却しています(本件自己株式処分)。

 その後、A社は、B公認会計士(B会計士)にA社の株価の算定を依頼し、B会計士は、平成15年10月31日、A社の同年6月26日以降の株価を配当還元法により1株1500円と算定しました。

 また、A社の取締役会において、平成16年2月19日、発行価額1株1500円、発行株式数4万株で、第三者割当の方法による新株発行(本件新株発行)をすることが決議されました。この際、B会計士の算定結果の報告から4箇月程度しか経過していなかったため、改めて専門家の意見を聴取することはありませんでした。

 そして、同年3月8日、A社の株主総会において、本件新株発行を行う旨の特別決議がされました。その際、Y1らは、「特ニ有利ナル発行価額」をもって株主以外の者に対し新株を発行することを必要とする理由の説明はしませんでした。

 なお、平成15年度以降、経営を持ち直したA社は、株式の上場を再び視野に入れるようになり、平成18年2月には1株を10株にする株式分割を行い、同年3月には新株22万株を1株900円で発行しています。

 

 原審(東京高等裁判所)は、本件新株発行が行われた当時のA社の株式価値について、「第三者割当の方法による新株発行に関する規制の趣旨、目的に照ら」し、「新株発行時における旧株式の客観的な交換価値を基準とすべきであり、本件のような非上場会社においては新株発行当時の会社の資産や収益の状況等の諸般の事情を考慮して事案に相応しい方法によって判断するのが相当である」としました。そして、A社の株式は、平成12年5月時点で1株1万円程度、平成18年3月時点で1株(株式分割前)9000円程度、DCF法によれば平成16年3月時点で1株7897円と算定され、諸般の事情も考慮すると、本件新株発行における公正な価額は少なくとも1株7000円を下らず、本件新株発行の発行価額(1株1500円)は「特ニ有利ナル発行価額」に当たり、A社は、2億2000万円(公正な価額(1株7000円)と発行価額(1株1500円)との差額5500円×4万株)の損害を被ったと認定しました。そして、Y1らは、旧商法266条1項5号に基づき、A社に対して連帯して2億2000万円を支払う義務を負うとしました。

 これに対し、最高裁は、「非上場会社の株価の算定については、...様々な評価手法が存在しているのであって、どのような場合にどの評価手法を用いるべきかについて明確な判断基準が確立されているというわけでな」く、「個々の評価手法においても、...ある程度の幅のある判断要素が含まれていることが少なくない。株価の算定に関する上記のような状況に鑑みると、取締役会が、新株発行当時、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額を決定していたにもかかわらず、裁判所が、事後的に、他の評価手法を用いたり、異なる予測値等を採用したりするなどして、改めて株価の算定を行った上、その算定結果と現実の発行価額とを比較して『特ニ有利ナル発行価額』に当たるか否かを判断するのは、取締役らの予測可能性を害することともなり、相当ではない」としました。また、「非上場会社が株主以外の者に新株を発行するに際し、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたといえる場合には、その発行価額は、特別の事情のない限り、『特ニ有利ナル発行価額』には当たらないと解するのが相当である」としました。

 そして、本件では、「B会計士の算定は客観的資料に基づいていたということができ」、「本件のような場合に配当還元法が適さないとは一概にはいい難く」、「B会計士の算定結果の報告から本件新株発行に係る取締役会決議までに4箇月程度が経過している」ものの、その間にA社の株価を著しく変動させるような事情もなく、「同算定結果を用いたことが不合理であるとはいえ」ず、「本件新株発行の当時、Y1その他の役員等による買取価格、A社による買取価格、Y1が提案した購入価格、株主総会決議で変更された新株引受権の権利行使価額及び自己株式の処分価格がいずれも1株1500円であったことを併せ考慮すると、本件においては一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたということができる」とし、本件新株発行における発行価額は「特ニ有利ナル発行価額」には当たらないと判断しています。

 

 本件は旧商法に基づく訴訟でしたが、会社法においても、募集株式の払込金額が「特に有利な金額」の場合、取締役は、株主総会における説明義務を負い(会社法199条3項)、この任務を怠り会社に損害を生じさせた場合は、会社に対し損害賠償義務を負います(会社法423条1項)。

 非上場会社が会社法199条3項の説明をせずに第三者割当増資を行う場合、取締役の会社に対する損害賠償責任を問われることがないようにするには、どのような点に気を付けて募集株式の払込金額を決定すべきかの参考として本判例をご紹介します。

 

参考:最高裁平成27年2月19日判決(上告審)

   http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/873/084873_hanrei.pdf

   東京高裁平成25年1月30日判決(控訴審)

   東京地裁平成24年3月15日判決(第一審)

Category:会社法 , 新株発行

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