改正金融商品取引法の成立③

未分類

平成24年9月6日に成立した改正金融商品取引法に関する説明の最後になります。

前々回は①総合的な取引所に向けた制度整備と②店頭デリバティブ制度整備に関する説明,前回は③課徴金制度に関する説明でしたが,最後は④インサイダー取引規制の見直しについてです。

 

「インサイダー取引規制」という言葉自体は昨今よく聞かれるところですが,その歴史(日本での歴史ですが)は比較的浅くて,インサイダー取引規制が導入されたのは昭和63年です(当時は「証券取引法」です。)。昭和62年にタテホ化学工業の財テク失敗を公表前に知った取引金融機関が,未公表の間にその株式を市場で売却したという事件が導入のきっかけでした。

「インサイダー取引」を簡単に言うと,タテホ化学工業事件の例でも分かるように,上場会社関係者等が,上場会社の未公表の重要事実(インサイダー情報)を知りながら,その会社の株式の売買等を行うことです。上場会社の「会社関係者」と言うと,何となく役員レベルを想定しそうですが,そんな限定はなく,アルバイトでも含まれると考えられます。

 

さて,平成24年9月6日成立の改正金商法におけるインサイダー規制の見直しは,専ら組織再編時のことになります。

具体的には,「a  合併又は会社分割による上場株式の承継についてもインサイダー取引規制の対象とする」「b 合併・会社分割・事業譲渡による保有株式の承継のうち違反行為の危険性が低い場合合併等の対価としての自己株式の交付についてインサイダー取引規制の適用除外にする」旨の改正です。

まず,「a  合併又は会社分割による上場株式の承継についてもインサイダー取引規制の対象とする」ですが,現行法下でも事業譲渡ではインサイダー取引規制の対象になっていましたが,同じような組織再編行為である合併や会社分割も同様にインサイダー取引規制の対象にすることにしました(改正金商法166条1項)。

他方で,これによってM&Aが萎縮するのも避けたいことから,一定の場合には,合併,会社分割や事情譲渡における株式の承継での適用除外も定めました。それが,「b 合併・会社分割・事業譲渡(併せて「合併等」)による保有株式の承継のうち違反行為の危険性が低い場合合併等の対価としての自己株式の交付についてインサイダー取引規制の適用除外にする」という点です(改正金商法166条6項,167条5項)。

合併等による保有株式の承継について,違反行為の危険性が低い場合として,その株式が承継資産の20%未満の場合(内閣府令で定める割合未満)や合併等の内容決定の取締役会決議が重要事実を知る前になされた場合等になります。

また,合併等の対価として自己株式の交付が適用除外されることになった経緯としては,組織再編のときには,対価として,新株や自己株式が交付されることが多いのですが,新株発行+交付でやる場合にはインサイダー取引規制の対象外になる一方で,保有する自己株式の交付でやるときには規制の対象にされてしまうのでは,おかしいだろうという点があるかと思います。

 

これで平成24年9月6日付け成立の改正金商法に関するブログ三部作は完結ですが,インサイダー取引規制は熱い論点となっており,罰則が強化される方向でさらなる改正の可能性があるところです。 

平成24年12月10日

著者
クレア法律事務所>
クレア法律事務所

クレア法律事務所のスタッフブログです。

その他のブログ記事

最新ブログ記事