外国為替証拠金取引(FX取引)と裁判管轄

先物取引金融商品取引法

インターネットを利用して外国為替証拠金取引(FX取引)を行っている方も多いのではないでしょうか。

FX取引は,少額の証拠金で,レバレッジをきかせて,より大きな金額の取引を行うもので(今は倍率規制もなされましたけど),ハイリスク・ハイリターンの先物取引といえます。以前は野放しなところもありましたが,法整備により,悪質な業者は淘汰されてきたといえます。

そんなFX取引については,パソコンや携帯電話などを使ったインターネット取引が主流となっています。

 

さて,インターネットを使ってFX取引を開始する場合,業者での口座開設にあたって,パソコン等の画面上で,取引約款について承諾したことを求めるボタンが表示され,それをクリックすることで手続きが進むという形になっているかと思います。

この約款の中には,裁判管轄に関する合意規定(要するに,顧客と業者との間で裁判が発生した場合に,どの裁判所で裁判をするかについての取り決め)が含まれていることが一般的です(その業者の本店・支店所在地を管轄する裁判所になっていると思われます。)。

この規定には,たとえば,「当社の本店又は支店の所在地を管轄する裁判所を専属的合意管轄裁判所とする」などと規定されています。

「専属的合意管轄」という聞き慣れない言葉ですが,要するに,その裁判所(業者の本店又は支店の所在地を管轄する裁判所)以外では裁判をしませんという合意になります。裁判というのは本人または代理人が出廷する必要がありますから,遠方の裁判所で裁判をやるというのは経済的にも負担になります。そこで,業者側は自己に有利な内容の規定を置いているのです。

 

では,何らかの事情でFX取引の業者と裁判をすることになった場合,顧客はこの約款に従って,業者に有利な裁判所で裁判をしなければならないのでしょうか。

この点,神戸地裁尼崎支部平成23年10月14日決定は,「インターネットのみを媒介とした取引において,電磁的記録の約款上の管轄条項によってなされる管轄合意については,約款に合意しなくては取引を開始することができない上,当該管轄合意を除いた合意をすることができない仕組みになっていることが多く,また,取引開始時において紛争を前提とした条項について顧客が関心を払うことが通常あり得ないこと,約款の内容は取引会社側が一方的に規定することができる上,法定管轄を有する裁判所のうち,取引会社側に有利な特定の裁判所にのみ管轄を限定することが顧客に極めて重大な影響を及ぼすものであることに照らすと,顧客において,約款による合意をした際に,直ちに排他的な専属管轄の合意までしていると解することはできないというべきである。・・・特段の事情のない限り,排他的な管轄合意ではなく,法定管轄を排除しないで合意した裁判所との併存を認める旨の合意をしたと解するのが当事者の合理的意思に照らして相当である。」と判断しました。

 

長いので要約しますと,

約款上は業者の本店又は支店の裁判所になっているけれど,業者が一方的に決めたことであるから,約款にかかわらず,基本的には,法律上管轄が認められる裁判所においても,裁判をすることができると解すべきということです。

したがって,この裁判例によれば,必ずしも業者に有利な裁判所で裁判をしなければならないわけではないということです。

この種の問題はFX取引に限定されるものではなく,インターネットを介した取引では同様にあてはまるところですが,非常に妥当な判断と言えます。

平成24年2月14日

Category:先物取引 , 金融商品取引法

著者
クレア法律事務所>
クレア法律事務所

クレア法律事務所のスタッフブログです。

その他のブログ記事

最新ブログ記事