先物取引の初心者保護・悪質業者の手口

先物取引適合性原則

先物取引という取引は,複雑で,リスクも大きい取引です。

 

商品先物取引法215条は,「商品先物取引業者は,顧客の知識,経験,財産の状況及び商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行つて委託者等の保護に欠け,又は欠けることとなるおそれがないように,商品先物取引業を行わなければならない。」とし,いわゆる適合性の原則を定めています。

 

ただ,適合性の原則と一言で言っても,具体的にどんな場合が不適当なのかが良く分かりません。

 

この点,参考になるものとして,「商品先物取引の委託者の保護に関するガイドライン」というものが以前から存在していました(このガイドライン自体は旧法・商品取引所法下で適用されたものですので,平成23年1月の法改正後には対応しておりませんが,非常に参考になるものでした。)。そして,この考え方は,現行法下においても受け継がれ,「商品先物取引業者等の監督の基本的な指針」(http://www.meti.go.jp/policy/commerce/z00/110107kantokushishin.pdf#search='先物 指針' )に反映しております。

 

今回は,このガイドラインにおける「商品先物取引未経験者の保護措置」についてご紹介します。

 

<初心者保護> 

先物取引の初心者に対する勧誘であったとしても,いきなり適合性原則違反になるということではありません。ただ,初心者(ビギナー)という意味において,より手厚い保護を受けてしかるべきだろうというのは感覚的に納得できるところではないでしょうか。

 

上記ガイドラインは,「過去一定期間以上にわたり商品先物取引の経験がない者に対し,受託契約締結後の一定の期間において商品先物取引の経験がない者にふさわしい一定取引量を超える取引の勧誘を行う場合には,適合性原則に照らして,原則として不適当と認められる勧誘となると考えられる。」と記載しています。

ここでいう「ふさわしい一定取引量」とは,投資可能金額の3分の1とされています。

そして,「一定の期間」というのは最初の取引から最低3か月とされています。

つまり,取引開始時に,投資可能金額を600万円とした場合,その取引開始から3か月間は,200万円までの取引量に抑えましょうということです。

 

私が訴訟をする際には,これはかなり重要なルールだと考えています(法改正によって投資者保護が後退するなど考え難いですから,現行法下においても当然に遵守されるべきルールと考えています。)。

  

<悪質な業者・営業マンの手口>

しかし,やっかいな場合があります。

悪質な業者・営業マンは,顧客本人が申告した投資可能金額を無視して,いい加減な投資可能金額を書かせるのです。このとき,営業マンは「形式的なものですから」とか「審査が通りませんので」などと言いながら,言葉巧みに申告金額よりもはるかに多い投資可能金額を書かせます。この際,顧客の年収や資産なども書かせるのですが,それもいい加減な数字を書かせることが多いです。

 

ただ,そういう悪質な業者でも,最初は,顧客本人が投資できるといった金額だけを預ります(要するに,本人が申告した投資可能金額の3倍以上を投資可能金額として書面に書かせるのです。)。その後,追加でお金をどんどん預けさせるのです。 

 

また,上記ガイドラインが,顧客本人が一定取引量を超える取引を希望する場合で,先物取引に習熟しているときには,その旨の自書による書面での申告を経れば,例外的に,一定取引量を超えてもいいとしていることから,

悪質な業者・営業マンは,顧客本人に手書きで書面を作成させ,その原本を受け取るようにします(実際に書かせるのは,担当の営業マンではなく,別の人間になり,その人間が言うとおりに書くように指示されます。)。顧客本人が躊躇しても,この書類を作成しないと顧客が損をするかのように思わせ,言うとおりにさせます。

 

このようにしますと,後々には,顧客本人が手書きで嘘の投資可能金額を記載した書面と一定の取引量を超える取引についても了解したことを記載した書面だけが残ることになります(逆に,口頭でのやり取りは証拠としては残っていないことになります。)。

 

このようなケースで,先物取引被害に遭われた方は,早めに弁護士等にご相談ください。

平成23年12月26日

Category:先物取引 , 適合性原則

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